イノセンスR†短編

□宣戦布告、それは一つの絆の終焉
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家族の温かさとは一体どんなモノなのだろうか。


スパーダはイリアの故郷サニア村から少し離れたオアシスに来ていた。空はかんかん照りでスパーダの疲労も溜まって行く。しかしあんな所に居られなかった。あんな所に居たらきっと求めてしまうような気がした。
天空城の崩壊。己を忘れたルカがアスラとなって天空城を崩壊させた。ルカを置いては行けないと反対したイリアとスパーダはコンウェイ、キュキュによって気絶させられ、ルカを置いて飛行船に乗りその場から去った。スパーダが目が覚めた場所はイリアの故郷であるサニア村でイリアの実家だった。イリアの両親はとても優しい人でルカを待っている間、食事を出してくれたり寝床を貸してくれたりした。スパーダ自身にとってそれはとてもありがたかった事ではあった。しかしどう接すればいいか分からない。他のみんなは彼女の両親と上手くやっている(戻って来たルカもそう時間が掛からなかった)。自分だけなのだ。何処か距離を置いてしまっているのは。
家族、というのに良き思い出は何一つない。親から見放され、剣だけは上手いから兄達からは虐めを受けて、使用人はそんな彼に同情した。とても冷めた家族だった。だから、分からない。家族の温かさが。どうすればいいか、どう接すればいいか分からない。そのため、スパーダは此処へと来た。自分があそこに居たら周りの気分を害してしまう気がして。
スパーダは湖に手を尽かす。冷んやりとしていて気持ちがいい。

「……やっぱ駄目だ。…………家族っていうのはオレにとって何なんだろうな……」

スパーダは溜め息混じりに零す。可笑しいのだ、自分は。ルカともイリアとも、アンジュにリカルド、エルマーナにキュキュにコンウェイとも。彼等と自分は違うのだとスパーダは思った。家族の温かさ、それはみんな知っている事で。自分だけが分からない。家族とは抑も何なのか。それすらも今のスパーダにはよく分からなかった。



「え? スパーダが居ない?」
「そうなの。ルカ君が戻って来た時は居たんだけど、目を離した隙に、って感じで……」

アンジュがどうしたものかしらと言い首を傾げる。ルカは部屋を見回すがスパーダの姿は何処にも見えない。彼の愛用している二刀の剣もない事から外にでも行ったのだろうか。しかしそれでは何故……。サニア村周辺はあまり魔物は出ないという事だが、やはり心配だった。もしかするとその域から出てしまっているかもしれないし、万が一魔物に襲われて負傷を負っていたらと思うと……。ルカはそこまで考えて首を振る。確かにこの地域の魔物は強いがそこまで苦戦を強いられない。何よりもスパーダが魔物に負けるなんて有り得ないのだ。ルカはスパーダの隣で見て来た。一番近くで見て来たのだ。彼が魔物を倒す瞬間を。彼の強さを。だから大丈夫。大丈夫。

「ねえ、ルカ君」

後ろからふと声を掛けられ、振り向く。そこにはコンウェイが居た。しかしいつもの彼とは少し違う。眉間に眉を寄せ、厳しい表情をしていた。ルカはそれを見て、只事ではないようなそんな気がした。

「スパーダ君、居る?」
「あ、ううん……見当たらないんだ…………」
「……いつまで白を切るつもりだい?」

コンウェイが怒りも混じった声で言った。ルカはえ、とコンウェイを見る。コンウェイはそれ以上喋らない。表情も変わらない。そんなコンウェイをルカは恐く感じた。有無を言わせない、そんな声でコンウェイは言ったのだ。

「…………」
「……コンウェイ……?」

沈黙を破るためにルカはコンウェイに問おうとするがコンウェイは口を開こうとしない。ルカは固唾を呑んだ。手が汗ばむ。生憎アンジュは何処かへ行ってしまった。この場に居るのはルカとコンウェイだけ。
暫く沈黙が続いたが、やがてコンウェイの溜め息と共にそれは破れた。

「 ─ ─ ルカ君。キミはいつまで己の気持ちを隠すつもり?」
「え……」

コンウェイの質問の意図が分からなかった。話の流れからしてスパーダに関連するものなのだろうけれど。

(己の気持ち=c…?)

ルカは心の中で鸚鵡返しをする。何だろうか。その言葉を聞いた瞬間、胸がモヤモヤして来た。何かスッキリしない気分だ。それは勿論、スパーダの事もあるからで ─ ─ 

(……あれ?   そういえば僕、何回スパーダって言って……)

ルカは混乱した。ルカが好きなのはイリアだ。そう……だった。分からない。ルカは頭を振る。全てがこんがらがって来た。自分の大切な人は一体誰なのだろう。今、自分にとって絶対的存在者は一体……。

「今、頭が混乱してるでしょ」
「 ─ ─ っ!?」

ルカは目を見開く。コンウェイは未だに厳しい表情のままだ。ルカは震える声で彼に問う。

「な……んで…………?」
「……ルカ君」

ルカの質問には答えずにコンウェイは一息置いてから、

「宣戦布告。 ─ ─ ボクはスパーダ君が好きだ。そしてキミも彼が好き。 ─ ─ ボクはこの旅が終わったら彼に告白する。そして永遠にこの世界から消え、最期の言葉で彼の心を蝕んで行くつもりだよ」

ボクの事しか考えられなくなるようにする。
コンウェイはとても綺麗な笑顔で言い、ルカは無数の槍が突き刺さったような苦しみに襲われた。



【宣戦布告、それは一つの絆の終焉】



(君が言った言葉は無数の槍となって僕を突き刺した。それは、)
(殺人鬼から受けた傷よりも痛かった)
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