novel

□だって、『2月2日』ですから。
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 奥村燐、崖ぷっち状態の最中で無事に祓魔師になって、烏兎怱々10年近く過ぎ去りました。夢も叶って聖騎士にもなりました。ジジイの正しさを騎士團の奴らに叩きつけて、汚名を雪ぐことにも成功しました。

うん、人生、なかなか良い方向に軌道に乗り始めた。

ついには、ごく最近に可愛い嫁さんももらいました。祓魔塾の同期生、杜山しえみ。今は、奥村しえみだけどな。結婚したし?

ええ、俗に言う新婚ってやつだよ。

夫婦仲良く話したり、何処か出掛けたりしてバカップル的幸せを謳歌するんじゃねぇの。

え、任務ってなに?
ナニソレ、新手の嫌がらせですか。

しかも、今日は2月2日、『夫婦の日』じゃん。そんな日に任務ってさ〜〜〜。ヤル気出ないよ?
ホラ、本部の奴らは俺のことを悪魔だの魔神の落胤だの言ってるけどさ、俺だって幸せになりたいわけですよ。そんでさ、幸せ掴んだんですよ。

なのにっ!!

この日に限って任務って!!

しかも、しえみも召集ってナニソレっ!!!

嫌がらせなのか、嫌がらせなのか、嫌がらせなのか?!

折角籠ってたのに、なんたらの岩戸も自分で開けなきゃなんねーじゃん。いやいや、その恨みいかで晴らせでいか。


「しえみ。」


仮拵えの本部テントで、部下に各々命令を飛ばした後に、一緒に手騎士として指示を受けていたしえみの肩を掴んだ。


「なぁに、り・・・。」


俺の名前を言いながら、振り向いた 彼女の唇に掠めるような口付けを落とす。でも、それだけでは満たされなくなって、唖然とした表情で俺たちを見詰める祓魔師たちを横目にしながら、舌を触れ合わせた。


「燐のばかっ!!今は任務中だよ!!!」

「ならば、呼び方はそれじゃ不味いよな。」


奥村聖騎士だろ?と、からかい気味に問えば、知らないとそっぽを向かれた。まぁ、しえみに怒られるのは当たり前だけど、ちょっと当て付け、いやかなり、嫌がらせをしたかった。 今だフリーで、聖騎士に労基も新婚もない、と、ふいた野郎に。因みに、唖然として見詰めていたやつがそうだ。 しえみを怒らせたら、後々まで長引く。折角の、語呂合わせ夫婦の日に喧嘩はしたくない。
正直に言ってしまおう。


「ごめん。今日は2月2日で、その・・・・『夫婦の日』だろ?しえみと一緒に居たかったのに、任務が入ったからさ。悪かったよ、からかったりして。な?しえみ。許してくれよ。」

「・・・・うん。」


彼女がゆっくりと振り向く。白い頬に浮かぶ仄かな朱が、暗い裸電球の元で更に色みを増す。


「じ、じゃあ・・・ 、早く帰られるように命令をお願いします。燐、じゃなくて、聖騎士。」

「了解!」


言って、一瞬だけお互いの指先を絡めて離す。フリー野郎に視線をやれば、苦々しさの中に羨望をまじえた視線とぶつかった。

ニヤリと笑う。

魔神の落胤だとか聖騎士だと言う前に、俺だって所帯持ちの男子ですから。しかも、今日は2月2日で夫婦の日。

シアワセってやつを、噛み締めたいわけだよ。



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