novel

□アナログ
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電話、携帯、パソコン、インターネット、Facebook 等々 ・・・・。二度に渡る世界中を巻き込んだ大戦から復興へ と進み、高度経済成長期なる時代を経て、日本のみ ならず世界は経済と技術力を高めに高め、今尚、飛 躍と発展を求めている。その結果、文明の利器と称 されるそれらは、世界のビジネスを支え生活を豊か にするものとして常に人々の手のなかにある。俺達 の先代人の恩恵により、遠く離れた人との交信は、 随分と容易になった。お陰で救援先の祓魔現場の状 況把握や人員、上司との連絡も端末機器一つで済ん でしまう。祓魔師は万年人員不足であるが故に、時 は金なりとはよく言ったもので、ほんの少しの時間 差で任務に多大な影響を与えることも少なくはな い。祓魔師の階級によって異なる便利鍵が有るには 有るが、扉が無いと使えないという欠点があり、山 中に入ってしまえば、もう端末頼みだ。俺もその一 人で、先程も言ったように祓魔師は万年人員不足 で、本部、支部関係ナシに何処でも飛ばされてしま うため、此処最近の俺は海外任務が多い。これが終 われば次、さあ次に行けとひっきりなしに要請が来 る為に、態々報告の為に日本支部に戻るという時間 はかなり惜しいものがある。 まあ、本音を言ってし まえば、ど派手どピンク道化師上司の戯言を聴かな くて済むという利点もあり、端末機器さまさまとい うことだ。 日本とは空模様が異なる異国の地、任務が一段落し たところで携帯を取り出して、メールグループを表 示させる。グループ名は《家族》、だ。通話モード からTV電話モードに切り替える。数回のコールの 後、ディスプレイに表示されたのは、しえみの笑 顔。

「夜遅くにごめんな。寝てたか?」

「ううん、まだ寝てないよ。だから気にしないで、 ね?」

時差に考慮したつもりだが、日本はもう夜更け前の はず。時間的にはそろそろ寝る頃だろうが夜更けに も拘わらずに電話してきた俺に、にこりと微笑むし えみの笑顔が、とてつもなくいとおしい。

「ごめんな、ほんと・・・。」

「ふふ、いいの。大分、疲れてるね。ねえ、燐、怪我 とかしていない?大丈夫?きちんと休めてる?」

「大丈夫だ、今回は比較的ラクなほうだったからな。 それなりに休めてるよ。それよか、そっちは変わり ないか?あの子は?」

「さっきまで、お乳をあげたあとだったから起きてい たんだけれど、お母さんが寝かせてくれたか ら・・・・、ちょっと待ってね?」

一度、しえみからフェードアウトして、次に映し出 されたのは、白い小さな布団の中で安らかな寝顔を 見せる幼い息子。紅葉のような小さな手は柔らかく 握り締められている。思わず、液晶に触れた。無機 質で冷たく硬い感触。 もっと温かくやわらかいはず だ。 触れれば握り返してくれるはずなのに。 眠る前 は息子を抱きながら、子守唄を歌う。俺の中で虚し さという澱みが溜まっていく。抱き締めることも出 来ない。サミシイ・・・。ムナシイ・・・・。端末機器は非常 に便利だが、時に空しい衝動にかられる。家族と話 すのに、ワンクッション置かなければならないなん て。しえみと話したい。心行くまで抱き締めたい。 息子をこの腕に抱いてあげたい。 だけど、今は温もりが感じられない。

「燐、見えた?」

「・・・早く帰りてぇ。しえみに会いたい。」

「うん、私も早く燐に会いたい。」

「しえみと話したいし、抱き締めたい。」

「もう、燐ったら。・・・・・、でも私も抱き締めてほし い、です。今は、燐が居なくて、とてもさみしい の。あの子も待ってるよ。燐が子守唄を歌ってくれ ないからって、ずっとご機嫌斜めなの。だから、早 く帰ってきてね。・・・怪我なく、無事に。」

「この仕事が終わったら、直ぐに帰るよ。」

「うん、待ってるから。ねえ、燐・・・。」

「ん?」

「大好きだよ。」

ヒュッと息を詰めた。端末越しの囁きは温かく、胸 の奥にストンと降りた。それでも、やはり、隔たり 無しに間接的ではなく、しえみから直接その言葉を 聞きたい。

「帰ったら、もう一回言ってくれ。その言葉。」

そして、帰ったら彼女に、直接こう言うつもりだ。

「俺も、・・・・・すき・・・・だ。」

Fin

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