novel

□あなたはだれ
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いつもは勝気で生き生きと生気溢れる美しい瑠璃色 の瞳が、今は力無く伏せられ影を落としている。項 垂れる燐の口から漏れるのは、渇いた自嘲。

「へへ……。俺はやっぱり、化け物でしかないのだ ろうな。」

いつもの燐らしからぬ、力ない声。 心ない人間、しかも仲間であるはずの祓魔師から発 せられた侮蔑、そして罵倒。燐はいつもそれらに耐 えていた。それどころか、涙一つ見せなかった。

−−…もう言われなれたよ。気にしちゃいねぇっ て。だから、大丈夫だ。

そう言いながらからりと笑い飛ばして、気にしてい ないようなふりをして、如何にも自分は大丈夫だ と。そうやっていつもひとりで抱え込んでいた。あ の頃から……、不浄王の一件以来からもこの人 は…。 けれど、今回だけは違った。彼をここまで落ち込ま せたのは、燐の弟である雪ちゃんや私が罵倒された ことにあった。雪ちゃんは功績を積み重ねて、次期 聖騎士候補と云われるまでの地位にいる。燐自身も 力をコントロールして着実に任務を遂行、三賢者を 始めとしてヴァチカン本部からの覚えも良い。どん どん階級を上げていた。そんな兄弟の華々しいまで の出世に、燐や雪ちゃんを魔神の落胤だと罵り、快 く思わない人達が妬み嫉〔ねた〕みを含ませて、燐 と婚約している私や、その時一緒にいた雪ちゃんを 罵倒したのだった。それをたまたま通りすがった燐 が聞いてしまった。燐は自分よりも誰が傷付くこと を最も嫌う。仲間内からの言葉はたやすく燐の逆鱗 に触れた。そして、それに抗議した彼に放たれた言 葉が……。

−−人の皮を被った化け物め…。お前と一緒にいる 人間が哀れだ…。

…だった。 元々、喧嘩っ早い燐だから勿論、今回も大いに激昂 した彼を雪ちゃんと二人で宥めすかしながら帰宅し たのだった。帰宅そのままに、今も燐は気怠げにソ ファーに座り込んだまま。

「ねえ、燐。」

項垂れる燐の頬をやんわりと挟んで上を向かせる。 常日頃、私が綺麗だと思っている瑠璃色の瞳から は、とめどなく涙が零れていた。

「燐はね、化け物なんかじゃないよ。」

「…ふっ……。いや、あいつらの言う通りだ。俺は 悪魔の子だ。化け物なんだよ。」

「それは違う。」

「違わねぇッ!!!」

途端、燐が立ち上がって横に大きく腕を振り回し た。彼の身体からは感情に合わせて青い炎が噴きだ し、ユラユラと揺らぐ。その青い炎と同じ色の目 は、怒りと悲しみを滲ませていた。

「なぜ違うと言い切れるッ!!この炎〔力〕だって俺に しかねぇものだッ!そうだろッ!!雪男も悪魔に覚醒し こそすれ、この炎〔力〕はない。俺だけだ。それ に、この炎〔力〕のせいでどれ程の人が傷付いた? 犠牲になった?親父や雪男。それだけじゃねえ、志 摩や勝呂たちだって………。お前だってそうだろ、 しえみ。俺の傍に居ることで、お前は敵だけでな く、味方からの危険にも晒される。受けなくてもい い誹謗中傷の的になる……。俺のために誰かが傷付 くのは、もう…厭だ…。」

激昂した燐の身体から青い炎が吹き荒れたまま。そ れに構わず、私は燐を抱きしめた。

「なっ?!!しえみ?!」

馬鹿、死んでしまうぞと、私の行動に動転した燐が 後ろに後じさろうとする。それでも私は、彼を私を 抱きしめ続けた。

「大丈夫。熱くないから。」

そう熱くない。それは私には何の害も為さない。そ れどころか、まるで慕わしい腕〔かいな〕に抱かれ て、護られているかようなあたたかい気持ちにな る。これが燐の炎〔力〕。害あるものは滅し、守護 すべきものを護る。

「燐の炎ね、熱くない。寧ろ凄くあたたかいの。凄 く……、愛に溢れてる。」

あたたかくて慈悲と愛に満ち溢れる炎。激昂した今 でさえ、私をそれで焼き尽くすことなく、それどこ ろか優しく包んでいる。これで誰が傷付くと言うの だろう。それこそ、燐が涙を流すのは必ず誰かのた め。誰かが傷付いている時、燐はまるで自分のこと のように涙を流す。こんな美しい涙を流す人が何 故、化け物だと罵倒される必要があるんだろう。そ れこそ、人間の方が悪魔にも劣らない醜悪な心を 持っている。罵倒されるべきは人間たちの方なの に……。涙に濡れた頬を撫でて、燐をもう一度ソ ファーに座らせる。炎は既に終息していた。彼の頭 をやんわりと抱きしめる。胸元で燐がビクリと肩を 震わせた。

「聞いて、燐…。人のために涙を流すことのできる 燐が、その力で誰かを傷付けるなんて有り得ない よ。燐の心は誰よりも綺麗なんだから。それにね、 私は好きで燐の傍にいるの。燐が大好きだから傍に いたいの。愛してるの。お願いだから、傍にいない ほうがいいなんて、言わないで。」

「でも、俺は悪魔だ…。それでお前が傷付くの… は…。」

猶も言い募ろうとする燐の頭を解放して、その先は 言わせないように指を燐の唇に添えた。

「あなたは誰?」

「……?」

「あなたは誰?」

数回問いながら、まだ涙に濡れる燐の顔を覗き込 む。彼の唇に添えた指が握られた。

「奥村…燐。」

「うん、燐だよね。あのね、悪魔だからどうとか言 う前に、燐は燐だよ。それ以上自分を貶〔おとし め〕ないで。」

「しえみ…。」

「ね?」

「……。」

「りーん?」

「……分かった。」

そう言うと、燐はニカッと子供のように笑った。もう涙に濡れてはいない。燐は軽々と私を持ち上げる と膝の間に横向きに座らせて、そして優しく抱きし めた。耳元にあたたかい吐息が届き、唇を寄せられ たのだと知る。

「しえみ…。」

「なぁに、燐。」

「…ありがと。」

「うん。」

「じゃ、これはお礼な。」

そうして、頤に添えられた指の動きについていった先には、あたたかい唇の感触があった。

Fin

ちょっと、ティー、ティー!!(・ユ・)砂を吐いてきま す。ゲロ……。(きたね〜)

お粗末様にございました。とにかく、燐しえフィー バーが猛進しまくってて第二弾を書いちゃいました です(笑)ちょい、燐がヘタレ…orz

人物設定としては、燐は24歳でしえみは23歳です。

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