novel

□親子御結び
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祓魔塾の野外実習も、正午を以て前半戦は終了。リーパー5匹相手に格闘していた生徒も、フラフラと覚束無い足取りで野営テントに戻ってくる。 まだ入塾したばかりで、身体がついていかないのだろうが、悪魔への対応力を養うためには仕方ない。
俺は、苦笑しながら教え子たち一人一人の頭を撫でた。


「お疲れ、頑張ったな。」

「燐せんせぇ〜〜、もう無理。動けない・・・、足いたい・・・。」


グッタリとシートに座り込んだ女子生徒が今にも泣き出さんばかりに俺のコートにすがり付く。見れば、他の生徒たちも放心状態の体たらく。ある男子生徒は魂翔けしてんのかっていうくらい白眼を剥いていた。


「まあ、そうだよな〜。体力には自身があるいっかな俺でも、塾にいた時は、『あ、無理かも』って思った時期あったからさぁ〜。お前らの気持ちは痛いほど分かるぞ。」

「じゃあ、午後のは実習は・・・ー。」

「やるぞ。」

「うふ、ですよねー。」


ガックリと項垂れる生徒達にまた苦笑する。持ってきたスポーツバッグにあるそれを取り出すと、生徒達の中心に置いて、いそいそと風呂敷を解いた。


「まぁ、とにかく今は昼飯を食って元気出すことが一番だ。お前らの昼飯作って来たからさ、一緒に食べようぜ。」

「やった!!燐先生の手作り弁当だぁ!!」


生徒達の人数に合わせ、尚且つ、育ち盛りの子供たちの昼飯のため、重箱が高く重なるのは必然的。重箱が広げられる度に歓声が出るものだから、作り手の俺としては嬉しい限りだ。


「う〜んっ!!卵焼きの絶妙な甘さ加減。しかもふわふわで、美味しいっ!!」

「手羽先も味が染みててマジでうめぇ・・・・・やべぇ、泣きそう。」

「おいおい、そこまでしねぇ・・・。」

「しますっ!!燐先生の料理は天下一品なんですから。」

「そ、そーか。アリガト。」

「でもさ、燐先生って祓魔師のトップである聖騎士でしょ。先生が作ったお弁当を食べられるなんて、あたし達って幸せ者だよね〜。」

「だよね〜。祓魔師になったら後輩に自慢出来るってものよね。あ〜あ、しえみ先生が羨ましいっ。こんなに美味しいご飯をいつも食べられるんだもん。もうちょっと生まれるのが早かったら、私、燐先生と結婚出来たのに。残念。」

「おいおい。俺との結婚条件はそれだけかよ。」

「そんなことないですよぉ〜。」


ケタケタと笑いながら、生徒がおにぎりに手を伸ばす。けれど、その手がピタリと止まって、しげしげとおにぎりが並ぶ重箱を眺めはじめた。


「ん?どした?あ、もしかして紫蘇は苦手だったのか?」

「あ、いえ、そうじゃなくて・・・、コレ。」


女子生徒が指差す処を見れば、拳大に作ったおにぎりの、重箱の隅っこにピンポン玉サイズのおにぎりらしき歪なものが三つほど、鎮座していた。そして、梅干しが真ん中に押し込まれていた。あれ?こんなの入れたっけと、首を傾げていると―。


「先生、もしかしなくてもこのおにぎり、息子さん手作りじゃないですか?」

「璃緒が?」


そういえば、弁当を作っていた時にしきりに璃緒が重箱を覗き込んでいたっけ。あの時は、食べたいんだろうなと思って、璃緒の昼飯にも薄味にして同じおかずを作っていったが、こういうことだったのか。やべ、璃緒マジで天使。可愛すぎ。


「あ、燐先生、親バカの顔になってるー。」

「う、うっせぇな。」

「だって、ニヤけてるもん。」

「・・・ほっとけ。」

「じゃ、愛の籠った息子さん手作りおにぎりは燐先生に、ですね。」


はい、と紙皿に乗せられた小さな3つのおにぎりをもらって、口元が緩んだままそれを見つめる。小さなおにぎりを食べたらもう笑みが押さえられなかった。璃緒が一生懸命におにぎりを作っていただろう姿が目に浮かぶようで、その可愛い姿を見られなかったことに少し残念な気持ちになる。


「流石、俺としえみの息子だ。うん、天才。」

「のろけだぁ〜。親バカだ〜。」

「うるせぇっての。ほら、お前らも早く食わねぇと食いっぱぐれるぞ。」


重箱を見せれば、男子が半分ほど平らげている。女子生徒もあわてて箸を取る。現金なもので、さっきまであれほど疲れただの何だの言っていたヤツが、チャカチャカと身を乗り出してはおかずをかっさらっていく。もう一度、小さなおにぎりを口に入れれば、鰹の風味がきいた梅干しの酸っぱさとほんのりとした甘さがじわじわと広がる。うん、午後も頑張れそう。


「よし、弁当食って暫くしたらまた実習を始めるからな〜。たらふく食って元気出すんだぞ。」

「「ふぉいっ!」」


弁当を頬張りながら、教え子たちが元気よく振り向いた。



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あとがき

オリキャラ。燐としえみの息子
『奥村璃緒』
この小説では、4歳ということで。詳細設定は、blogにて掲載してます(^ー^)

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