総ては雨でした。

□【過去】灰色の雨。
1ページ/1ページ

『夏に見たのは実在しない人だった。
寒くなるまで知らないで愛してしまった。
今頃になってから全部演じてたなんて
受話器ごしに泣かれたって、こっちが泣きそう』
―――椎名林檎『警告』


君は、泣かなかったけれど。


同じ名前の君は、消えてしまった。
恐らくあれは恋だった、と思う。
初めて女の子を好きになった。
そう気付いたのは もう何年もたって、雪をすきになってから。

出会ったのは、部活でだった。
あの頃俺はクラスで虐められてたから居場所がなくて、
そんな時に元気づけてくれたのが君だった。
『僕が居場所になってあげる』
『こっちおいで』

今思えば完璧にビアンの気がありまくりの雰囲気だったけど
当時中一の俺は そんなこと何もわからない。

ただ俺を必要として、優しくしてくれる彼女が『親友』として大好きだった。
でも きっと『女』としても好きだった。
気付かないところで。

だって君は休みの日には電話をくれて、毎日手紙もくれて
会えば頭を撫でてくれたでしょう。
好きにならないわけなかったんだよ?
家族のこと、学校外での人間関係のこと。
それから、俺より大事だと云った、今はもう傍には居ない人のこと。
たくさん相談してくれたよね。
俺、本気で力になりたいと思った。
自分の無力さに初めて泣いた。
たくさんたくさん、泣いた。

でも もう その頃には完全に俺が溺れてたんだ。



たった一人で。



君は陸に立ったまま、ただ黙って俺を見ていた。

そう。
もう全部、相談も俺への気持ちも嘘だったって。
全部演じてたって知って、終わったよね。
俺の知らないとこでネタにしてみんなで笑ってたって。


矛盾が生じて、そこから全て崩れた。
嘘が下手な君、素直すぎた俺。
最後に問い詰めて出て来た言葉は『気持ち悪い』
俺の女の子に対する初恋は、俺に人間不信て傷を残して終わって、
君が中三で退学した時に、消えた。

今でも覚えてるよ。
君が俺に残した言葉。
椎名林檎の正しい町の歌詞。
『君に涙を教えた
あたしは其れも無視した』

俺は君に教わった涙なんて
ずっと昔に捨ててしまった。

さよならも言わせないで消えた、ずるい君。
今もし もう一度会えたら、どんな顔をするんだろう。
きっと笑顔で『さよなら』を言おう。



世界で1番、大嫌いだよ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ