中編

□そして月は輝く
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そして…俺は帰ってきた。
故郷であるはずの世界…
懐かしいはずの世界…
こんな形で帰ってくることになるとは思わなかった。
俺は一体何がしたかったんだろう…
あいつの姿が偽りであることに気付きながら、見て見ぬふりをして、裏切られて、勝手に傷ついて…
逃げるようにして立ち去って…あいつらを傷つけて…
―戻ってきて…くれますよね?―
涙を堪えた彼女の顔が頭から離れない。
…彼女だけじゃない。
皆が…切なげに俺を見ていた。
いっそ憎んでくれればよかった。
怒りに満ちた目で睨んでくれればよかった。
最初からここに留まっていればよかったのだろうか…
少しくらい鬱陶しくても、ここにいれば父や兄に守られて、愛されて…
御子として、父や兄を支えて…務めを果たして。
裏切られることなんて…きっと無かった。
だけど…かの地で過ごしたことで得たことだって、沢山ある。
そのすべてを否定することなど…出来るわけがない。
―隊長―
―日番谷隊長!―
己を慕ってくれた隊員達の顔…
一人として漏らさず思い出せる。
『月でありながら死神に馴染みすぎた…俺を愚かだと笑うか?』
ああ…本当に愚かだ…
逃げ出したにも等しいというのに…もう一度あの地へ戻りたいと願うなど…
許されるはずがないのに…
「冬月」
「!!」
名を呼ばれ振り返れば、そこには兄の姿。
確か兄は尸魂界へと出向いていたはずだ。
その彼が戻ってきているということは、自分は結構な時間をこうしてぼんやりと過ごしていたようだ。
「冬月、君に伝えなければならないことがある」
「伝えなければ…ならないこと?」
そして…兄の口から伝えられた言葉に、俺は眼を見開くこととなる。
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