中編

□初めての贈り物
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「これを…俺にですか?」
それは六番隊の副隊長になって少し経ったある日のことだった。
突然朽木隊長から渡された小さな包み。
開けてみろと促され、開いたそれから出てきたのは桜を模した髪飾りだった。
髪飾りを手に乗せたまま驚きに固まっていると、不意に彼の手がそれを持ち上げる。
そしてそのまま彼の手は己の銀糸に伸びた。
優しい温もりが軽く髪を梳き、髪飾りを留めてくれる。
なんだか気恥ずかしくて、その間ずっと俯いてしまっていた。
「…よく似合っている」
「ありがとう…ございます」
これが…あの人にもらった初めての贈り物だった。


もともとお洒落とか、そういったものに興味がなかった。
腰まで伸ばした髪もいつも同じように垂らすか、邪魔にならないよう一つに束ねるくらい。
だから、こんな風に飾ったのなんて初めてだった。
それも、あの人にもらった髪飾りだ…
嬉しくて、毎日のように身に付けるようになった。
けれど…そのせいで、その出来事は起こることとなる…



「副隊長!!そっちへ行きました!!」
「わかった!!」
流魂街の一角のとある森の中。
虚退治の任務へ出たその日は生憎の曇り空。
雨が降り出したのは最後の一匹を追い詰めた、その時だった。
「うわっ!!」
泥濘に足を取られたのか、一人の隊士が大勢を崩す。
その隙を虚が見逃すはずもなく、鋭い爪が隊士に向けて振り下ろされた。
…考えるより先に、身体が動いていた。
とっさに割り込んだのは虚と隊士の間。
肩が引き裂かれる瞬間が、まるでスローモーションのように見えた。
吹っ飛ばされた小さな体が傍にあった岩へと叩きつけられる。
悲鳴にも似た隊士たちの己を呼ぶ声が、酷く遠くに聞こえた。
肩に走る激痛と、頭を打ったのか朦朧とする意識の中、それでもしっかりと愛刀を構える。
「霜天に坐せ…」
己の半身とも呼べる氷竜が虚に牙をたてるのを見届けると同時に、冬の意識は闇に落ちた。
「早く、四番隊へ!!!」
そばに落ちた桜の髪飾りには…誰も気が付かなかった。
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