中編

□隣に立つ君へ
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その日の隊首会は常とは違い、張り詰めた空気が流れていた。
所定の場所に並ぶ十二人の人物。
不自然に空いた空間は、現在空席である十番隊隊長の為の場所だ。
「皆揃ったようじゃの」
総隊長の声が静かに響き渡り、隊首会の始まりが告げられる。
「今日集まってもらったのは他でもない。いまだ不在である十番隊隊長についてじゃ」
やはり…と溢したのは誰だったか。
近頃流れていたとある噂。
近い内に新たな隊長が選ばれる。
総隊長がその才を見出し、直々に育てたという秘蔵っ子…
その噂に対し、総隊長は何も言わなかった。
ただ…楽しそうにニヤリと笑うだけ。
だが、隊長陣にとってそれは、肯定を示しているように見えていた。
「我が一番隊に所属する隊士なんじゃがの…儂はいずれあの子に十番隊を任せたいと思っておる」
「あの子?」
あの子≠ノいずれ=c
随分引っ掛かる言い方をする。
まるでその者を子供扱いしているようだ。
どれほどの才があろうと総隊長から見ればまだまだひよっこ…といったところだろうか。
「実力は申し分ない。卍解もほぼ会得しておる。ただいかんせん、経験が少なすぎる」
…やはり若い死神のようだ。
しかし、卍解の会得まで成していると言うのならばその力は確かなのだろう。
護廷十三隊において年齢は関係ない。
ふさわしい器さえあれば上へ行ける、実力主義だ。
「…来たようじゃの」
不意に扉の向こうに感じた霊圧。
冬の冷たい空気のように研ぎ澄まされた霊圧。
けれど同時に包み込むかのような優しく暖かなそれ。
「入るがよい」
ゆっくりて開かれた扉の向こうにあったのは…銀色。
予想したよりも若い…否、幼いと言ったほうが正しいか。
腰ほどまである美しい銀の髪。
こちらを見据える大きな翡翠の瞳。
身の丈ほどもある斬魄刀は背負われている。
果たして斬魄刀が長いのか…彼女が小さいのか…はたまたその両方か。
彼女を形作る全てに目を惹かれたと言ってもいい。
それ程までに、その存在は異質なものだった。
「一番隊第三席、日番谷冬と申します」
隊長格を前にしても少しも怯んだ様子はなく、少女は凛とした声で名乗りあげる。
深く一礼すると、総隊長の傍へと歩み寄った。
「こやつが十番隊隊長候補じゃ。だが先程言った通り、こやつはまだ死神になって日が浅い。そこで…」
総隊長は一度言葉を切り、ぐるりと隊長達を見渡す。
…不意に、視線が重なった。
「六番隊、朽木隊長」
「…」
「お主のもとには今副隊長がおらなんだのぅ」
あぁ、そう言うことか…
総隊長の言いたいことを瞬時に理解し、気付かれないよう小さく息を吐く。
「日番谷は経験を積ませるため、六番隊副隊長に任命する」
周囲が僅かにざわめく。
まさかこんな子供が…そんなところだろう。
それもいずれは隊長に据えようと言うのだ。
年は関係ないといっても、流石にこれは前例がない。
子供という点では十一番隊の副隊長がいるが、あれは例外だ。
「なお、日番谷に隊首試験を受けさせる時期は朽木隊長に一任する。お主がこやつならば隊長として肩を並べられる…そう判断した時がこやつの隊首試験じゃ」
「…御意」
…冗談じゃない。
そう思わなかったと言えば嘘になる。
だが、銀色の少女に興味があったのもまた確かだった。
「よろしくお願い致します、朽木隊長」
「…ああ」
こうして、空席だった己の副官席には、幼き死神がその名を連ねることとなった。
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