捧げ物

□しらゆきと一緒
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「では、これにて本日の隊首会を終了とする」
一番隊隊舎にて行われていた隊首会。
総隊長の号令と共に緊迫した空気が薄れ、皆が姿勢を楽にした。
「時に日番谷隊長」
すぐには誰も動こうとしない中、最初に声を発したのは総隊長だった。
名を呼ばれた日番谷ははいと小さく返事をし、総隊長へと向き合う。
「先ほどから抱えておるそれはなにかの?」
総隊長、そして他の隊長達の視線が日番谷の腕へと注がれる。
そこにはなにやらもそもそと動く白い塊…
「…別に、なんでも…」
「なんでもないわけないよねぇ、どう見ても」
隣に立つ京楽がへらへらと茶化すように言う。
初めから誤魔化せるとは思ってはいなかったが、もう腹を決めるしかない。
「…うさぎ…です」

その日、日番谷は珍しく時間ぎりぎりに一番隊舎へやってきた。
その時すでにその白い塊は腕にあったのだが、一番最後であった彼が到着したことですぐに隊首会は開始された。
誰もがそれを疑問に思いつつも、口にすることはない。
時折ちらちらと覗き見つつも、隊首会は平常通り進められた。
「やっと聞けたんはええんやけど…なんでうさぎなんてつれてはりますの?」
「…」
小さなため息を一つ。
そして、日番谷が語り始めたのは昨日のこと…



非番を利用して訪れた祖母の元。
変わらない笑顔で迎えてくれた祖母の膝の上には見慣れない白い塊がぽすんと乗っかっていた。
「ああ、この子かい?実はこないだ見つけたんだけどねぇ…」
白い塊…もとい、うさぎは潤林庵の片隅にいたのだという。
怪我をしているらしく、連れ帰り面倒を見ているらしい。
「怪我、酷いのか?」
祖母からうさぎを受け取ると、怪我の具合を見る。
左程ひどい傷ではないようで、これくらいなら俺の鬼道でもなんとかなりそうだ。
「治せるのかい、冬獅郎?」
「ああ、これくらいなら…」
小さく言霊を紡げば、温かい光がうさぎを包む。
それを合図にするように、長い耳がピクリと動く。
「もう大丈夫だ。大事を取って数日安静に――ってうわぁ!!」
安静にしろと言おうとしたその瞬間、白い塊は勢いよく跳ね上がる。
着地した先は己の顔面…
ふわふわしたそれがこそばゆい。
「こ、こら!んなところに引っ付くな!!」
どこにそんな力があるのか、引き離そうとしてもそいつは断固動かない。
「おやおや、その子は冬獅郎に懐いたみたいだねぇ」
優しく微笑みながら言う祖母が、ほんの少しだけ恨めしい。
笑ってないで助けてくれと言いたい。
「は、な、れ、ろ!」
ようやくぺりっと引き離したそれは、めげずに再度向かってくる。
そう何度も食らってたまるかと身構えると、それは今度は顔ではなく肩へと飛びついてきた。
小さな体は肩にちょこんと乗っかると、頬にすりすりと顔を寄せてくる。
「…」
やはりこそばゆくはあるが、これくらいならまあそんなに邪険にすることもないだろう。
「冬獅郎、よかったらこの子を連れて行っておやりよ」
「え…でも…」
確かに瀞霊廷内の自室で飼えないことはない。
構ってやれないときも隊舎に連れていけば誰かしら面倒を見れるだろう。
そして何より…
「この子、冬獅郎から離れそうにないからねぇ」
肩に乗った白い毛玉はすっかり寛ぐ体勢で。
頷くよりほかに選択肢はないようだった。
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