捧げ物

□あにまるせらぴー
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それはある日の昼下がり。
珍しく急ぎの書類もなく、のんびりと昼休みをとっていた時だった。
天気もいいし、散歩でもするかと隊舎の庭に向かう。
隊士達が交代で…時には自らが手入れしている美しい庭は十番隊の自慢だ。
そんな庭に、珍しい客が来ているようだった。

「そっちへまわれ!」
「あまり近づきすぎるなよ!」
(…なんだ?)
なにやら庭が騒がしい。
日番谷は僅かに眉を寄せつつそこへ向かう足を早める。
そこにいたのは数人の隊士達。
そして彼らに囲まれていたのは…
「…犬?」
「あ、日番谷隊長!」
こちらに気付いた隊士が一人駆け寄ってくる。
「実は…迷い犬のようなんですが…威嚇されて…」
ちらりと犬のほうをみれば、確かに牙を向いている。
手を出すにも出せず困り果てている…そんなところのようだ。
「しかたねぇな…」
「あ、隊長!!気を付けてくださいね!」
「おぅ」
犬を囲んでいた隊士達を下がらせ、一人犬と向き合う。
犬はやはり牙を見せ唸り声をあげていたが、構わずまっすぐに見つめた。
「怖がらなくていい。何もしねぇよ…」
「…クゥーン」
「お前、どこから来た?飼い主探してやるから、な」
日番谷は視線を合わせるようにかがみ、そっと手を差し出す。
おそらく無意識だろうが、その表情はひどく優しい。
「ハウゥ…」
犬は恐る恐るといった様子でゆっくりと日番谷へ近づいてくる。
そして、ぺろりと細い指を舐めた。
「いい子だ」
ぽふぽふと頭を撫でてやれば、嬉しそうに尻尾が揺れる。
その様子を眺めていた隊士達は、みな一様に頬を赤く染めていた。
(さすが日番谷隊長)
(動物にも好かれるのですね)
敬愛して止まない幼き隊長と動物…
その光景はなかなかに絵になるものだった。
後ろで隊士達が惚けていることなど気づかず、日番谷は犬を撫でてやっている。
ふと目に留まったのは、首輪についていた小さなプレート。
「五郎…こいつの名前か?」
「わんっ!!」
名を呼ばれたのがわかるのか、犬―五郎は嬉しそうに吠える。
それにまた小さく笑みを見せつつ、日番谷は更にプレートの文字を追う。
「七番隊、狛村まで…お前、狛村の犬か」
そういえば七番隊は隊舎で犬を飼っていると聞いたことがある。
おそらく抜け出した先で迷ってしまったのだろう。
「しかたねぇ、連れてってやるか」
ただ…わりと大型なのであろう五郎を日番谷が抱えることは多分無理だ。
リードらしきものもついていないし、どうやって連れて行くか…
しかし、試しに少し歩いてみると、五郎はその後ろをちょこちょこと着いてくる。
…どうやら心配はなさそうだ。
「俺はこいつを狛村の所まで連れて行く。お前達は業務に戻れ」
「はい。隊長、お手数をお掛け致しました」
「構わねぇさ。ちょうど暇だったしな。それに動物は嫌いじゃねぇ」
日番谷はもう一度五郎の頭を撫でると、隊士たちに背を向けて歩き出す。
その背中を、隊士達は嬉しそうに見送った。
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