捧げ物

□その出会いは宝
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定例隊首会。
それは定期的に開かれる各隊の隊長による会議である。
この日も会場となる一番隊舎には白い羽織の猛者達が集まっていた。
「それではこれより隊首会を行う」
【一】を背負う老将の厳格な声が響く。
それと同時に隊長たちの間に緊張が走る…はずだった。
「あ゛ー」
言葉というよりは音に近い、どこか気の抜けたような声が静まり返ったその場に木霊する。
皆が何とも言えない視線を送る先には一人あたふたする男の姿…
「わわ、ダメっスよ冬獅郎サン。シー」
「う?」
男―十二番隊隊長浦原喜助の腕には小さな赤ん坊…冬獅郎が抱えられている。
浦原は冬獅郎の口にちょんと人差し指をあてるが、冬獅郎はきょとんとするだけだ。
「…浦原隊長…その童が先日申してお――――」
「ちょっとちょっと浦原君。いつの間にこんな可愛い子ちゃんとお知り合いになったのさ」
総隊長の言葉を遮るように歩み出たのは【八 】を背負う男―京楽春水。
それに続くように他の隊長たちも浦原に抱かれた赤子に興味を示した。
「京楽、その言い方はおかしいだろう」
「いいじゃないの浮竹。可愛い子ちゃんの部分は間違ってないんだし。ねぇ浦原君」
浦原は冬獅郎を実の息子と思い大切に育てている。
だからこそ愛しい息子が可愛いと言われて嬉しくないはずがなく、その表情はだらしなく緩んでいた。
「なんや喜助、オマエ隠し子おったんか。ほんなら母親は四楓院ちゅうとこか?」
「馬鹿を言うな平子。冬獅郎の母親になるのは大歓迎じゃが、夫が喜助など冗談ではないわ」
「何気に酷いっス夜一サン…」
二番と五番の隊長のからかうような笑みに多少へこみつつも、浦原の頬は緩みっぱなしだ。
しかし、次に冬獅郎を覗き込んだ二人の男により、その表情は崩されることになった。
「冬獅郎か。なかなか勇ましい名前じゃねぇか。面構えも悪くねぇ」
「霊圧を抑えているとはいえこれだけの隊長に囲まれてケロッとしてるとはな。肝も据わってるってことか」
九番隊隊長六車拳西。
七番隊隊長愛川羅武。
ガタイも良く、強面に分類されるであろう男が二人揃って覗き込むという状況に怯えない赤子は…恐らくいないだろう。
次の瞬間一番隊舎には冬獅郎の泣き声が響き渡った。
「お二人とも!!顔怖いんですからそんなに詰め寄ったら泣くにきまってるでしょう!!」
大人だって泣きますよ、などと言いながら浦原は泣きじゃくる冬獅郎を抱えなおす。
「ああ、ほら、冬獅郎サン。怖いおじさんはもういないっスから」
ぽんぽんと背中を撫でてやるが、赤子が泣き止む気配はない。
泣かせた張本人達や他の隊長もどうすべきかと戸惑う中、動いたのは一人の男。
「貸してみなさい」
男は浦原の腕から冬獅郎を抱き寄せると、慣れた手つきであやし始めた。
キャッキャと楽しげな笑い声が聞こえたのはそれからすぐのことだった。
「ほっほっほ。聞き分けの良い子だ。これならば倅や孫のほうが手が掛かったものだ」
「流石子育て経験者っスね…」
赤子に微笑みかけるのは【六】を背負う老人―朽木銀嶺。
この場にて唯一、親という立場を持つ男だった。
「赤子は親の不安や動揺を敏感に感じとるものだ。まずはお主がしっかりせねばならぬ」
「…勉強になります」
銀嶺の腕から冬獅郎を譲り受けつつ、ぺこりと小さく頭を下げる。
銀嶺の言う通り元々大人しくあまり手のかからない赤子である冬獅郎はそれ以上泣くこともなく、すっぽりと浦原の腕に収まった。
「うおっほんっ!!では改めて、隊首会を始める」
総隊長の一言でその場には再び静寂が戻る。
冬獅郎は今度は静かに、そして不思議そうにその光景を眺めていた。
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