02/19の日記

22:03
宗教松な一十四一
---------------


許されるなら、隣にいたかった。


「あのね、俺、初めてチョロ松兄さんに反抗した!本当は悪魔なんか目も合わせたら駄目だってさ、俺、バカだから!」

その言葉通り馬鹿みたいに明るい声で、天使は笑った。天使の名にふさわしい、柔らかで鈴のなるような優しい笑い声。僕みたいなクズでも心地よく感じる音。

「死神なんて論外だって言われた!俺ずっと、それが正しーことだと思ってた!」
「十四松、」
「でも違ってたよ!!」

肉の焦げる匂いがする。それが最早僕の肉が焼けているのか、十四松の肉が焼けているのかは分からなかった。ただ、全身が酷く痛む。僕を背負ったままの十四松は、火傷の痛みに加えて僕の重さもあるからきっと、僕なんかよりもずっと痛むに違いない。もう放っておけばいいのに、と思うようになってきたと同時に、背中の熱すぎるぬくもりは僕の涙腺を刺激して止まない。

「僕ね!多分だけど、一松兄さんのこと好きだよ!!」
「…死神なんか好きって言ったら、またあの女神に怒られるんじゃないの」
「めっちゃ怒られマッスル!」
「…馬鹿だね」
「うん、でも好きだよ」

十四松の足取りは重い。
まだ誰にも荒らされていない新雪のような、あれだけ美しかった翼は随分前に焼き焦げて、今はもう見る影もない。勿体ない。僕なんかと一緒にいるからだよ、馬鹿な十四松。

もう、限界がきていることはわかりきっていた。ただでさえ手負いの十四松は僕を背負っているし、僕は僕であの女神とやらに浴びせられた雷の怪我が酷かった。
それに加えて、死神と天使は相容れる者ではない。触れた部分から焼き焦げていく。十四松と僕の触れ合っている部分はきっと爛れて酷いことになっているだろう。
もう、潮時、だろ。

「十四松、はなして」
「いやだ」
「十四松」
「まだまだ行けマッスル!」
「…じゅうしまつ」

諦めたように歩みを止めた十四松は、そのまま僕に振り返る。こんなときでも、真っ直ぐに僕を見つめるビー玉のようなその黄色い目が好きだった。
その目に見つめられるだけで、全てを許されているように感じられた。

「もう、いいよ」
「一松兄さん」
「終わりにしよう十四松」
「一松兄さん」
「元々天使と死神なんて身の程知らずだったんだよ、お前が僕みたいなクズと一緒に居ちゃいけなかったんだ」
「いちまつ」

呼びかけに自分の体が震えたのがわかった。
ゆっくりとおろされる。もう立つことすら億劫でそのままの勢いで仰向けに倒れた。馬鹿みたいな青空と、俺を見つめる黄色いビー玉。

「……そんな目で見んなよ」
「いちまつ」
「止めろって!!」
「…一緒に死のうよ、いちまつ」

ああ、なんて、やさしい。

「…なにいってんの」
「天使と死神じゃ、一緒に居られないから、このままじゃ、会えなくなっちゃうから、」
「馬鹿じゃねぇ、の」
「好きだよいちまつ」
「おまえ、本当に、馬鹿」
「泣かないで」

俺の隣にどさり、と倒れ込んだ十四松の瞳がゆらゆらと揺れる。俺の好きな黄色いビー玉。泣きそうなのはお前だろ、ばか。
馬鹿な天使と一緒にいて、同じく馬鹿になってしまったらしい俺の涙腺はとどまる事を知らず、頬を何度も滴が伝った。焼け爛れた肌に染みて、少し痛かった。
隣に横たわるソイツの長い袖に包まれた手をとると、じゅ、と静かに湯気がたったが、その痛みはもうあまり分からなかった。

「死んだらどうするの?」
「生まれ変わりまっせー!」
「俺ら、死神と天使なのに?」
「うーん、大丈夫たぶん…」
「多分ね…」

もう痛みは完全に分からなくなった。
手を、握っている感覚もない。向き合ったままの十四松も同じらしくて、黄色い光を放つ瞳を半分ほど閉じて眠そうにしている。

「十四松」
「………なんすか、一松兄さん」
「……………俺も好きだよ」
「………うん」

ずっとずっと、好きだったよ。
お前が天使だろうとなかろうときっと好きになったよ。何でも許してくれるようなその黄色い目が好きだったよ。火傷するってわかってるのに何度も俺に触れようとするその手が好きだったよ。お前が大好きなあの女神に初めて反抗したのが俺のためだって聞いた時、本当に嬉しくて死ぬかと思ったんだよ。好きだよ、十四松。

優しい、微睡み。
陽だまりに包まれているような心地よさ。
もう、終わりだ。

さよなら十四松また来世。
愛してるよ。
















「一松兄さん!野球しよ!!」
「準備するから待ってて…」

騒がしい黄色とその隣を歩く紫。
松野家では別段珍しくもない光景だ。

「まっさか、お前が許すとは思わなかったけどねー」
「昔の話はしない約束だろ」
「丸くなったもんだよねー、あんな恐ろしい女神様がさ」
「それを言うならお前もだろ大魔王様」

あの頃のお前が、今はアイドルのおっかけしてるなんて知ったらどう思うんだろうとか考えると面白いよな。

前へ|次へ

コメントを書く
日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ