07/10の日記

06:08
総悟誕にあげる予定だったやつ
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終わらなかったよね。





最後まで美しい人でした。
いつも高貴で気高く、柔らかな淡い栗色の髪があの白い肌にかかって、そこからのぞく二つの蘇芳色はいっそ恐ろしくなるほどでした。それでも、極まれに花の綻ぶように笑う儚い人でした。私などが話しかけてもらえるのがおかしいような、まるで世界の違う人だったのです。

彼は沖田総悟と言いました。
最早その名前すら凛として真っ直ぐで、それでいて輝いているのですから、もうどうしようもありません。私が、彼に恋焦がれているためにそう思えるのではないのです。本当に美しい人でした。

気だるげに話す人でした。
よく、気だるげに、本気なのか冗談なのか分からないようなことを言って無表情に目を細めていました。今思うとあれは彼の癖だったのでしよう。時たま、お具合のよろしい時は庭を歩き、空を見上げ、微かに溜息をもらしていました。哀愁漂うその姿もなお、様になるお人でした。

彼は気まぐれに昔の話をしていました。
今でこそ静かだが、隊にいた頃は随分やんちゃだったのだ、というのが彼の口癖でした。たくさんの話を聞きました。恋愛シミュレーションゲームに没頭していたこと、屁怒絽という人達と銭湯にいったこと、実はジェットコースターが大の苦手ということ、局長に黙って片付けようとした仕事がバレて始末書の山に囲まれたこと。懐かしそうに、とても眩しいものを見ているように優しく目を細める彼は、決して言葉にはしないけれど、酷く愛おしそうに話すのでした。

沖田様は一番隊の隊長でいらっしゃったそうなのですが、彼がそれをひけらかすような振る舞いをしたことは一度もありません。
ただ、時折思い出したようにぽつり、刀に触れてねえと落ち着かねえな、とこぼしてはいましたが。


――お江戸からは、よく手紙や使いの方が来られていました。
ただの侍女である私にはよく分かりませんでしたが、沖田様はお手紙を読む度、使いの方の話を聞く度に眉を寄せ上げ、難しい表情をしていらっしゃいました。
彼の病状も決して良好ではなく、日に日に悪化するばかりでした。

清々しい青空の日だったように思います。
その日いらっしゃった使いの方は真っ赤に腫らした目をなおも擦りながら、静かに一言おっしゃいました。


“局長が処されたとお伝え下さい"

誰のことだかも、何の話だかも理解はできませんでしたが、ただ、沖田様にとってよろしくない話だということは理解できました。
私は、この事実を彼にどう伝えればよいのか悩みましたが、結局、静かにそのままお伝えすることにしました。

その頃彼は発作が酷く、床から起き上がることも出来ない状態でしたので、彼は布団へ寝転んだまま私を見上げておられました。
私は本当に、そのままお伝えしました。
彼はしばらく咳き込んで、相変わらず静かに「そうかィ」と呟いただけでした。
表情にと声色にも出さないけれど、彼が“局長"の死を悼んでいるのは容易に想像がつきました。


それからほどなくして、彼の発作は少しだけ収まりつつありました。
彼はよく縁側に腰をかけ空を見上げるようになりました。以前より口数も減ったように思います(あまり話されるとお体に障るのでそれはそれで心配なのですが)。

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