銀魂 腐弐

□雨が降ると。
2ページ/3ページ






「おら、帰るぞ」
「そう、ですねィ」
「二人してビショビショで、心配かけちまう」
「…そう、です、ね…」
「総悟?」



小さな声だったからなのかは分からないけど、不思議そうに俺を振り返って。


その真っ直ぐな瞳は全てを知っているような錯覚を起こす。気分が悪くて思わず俯く。
頬の滴には、気が付かないでほしい。


だって、自分はきっと、
そう遠くない日に貴方達を裏切る、から。




「…」
「っえ、」



何も言わずに拳を握る力を強めると、冷たい雨の中、あたたかなぬくもり。
抱き締められている。


「ちょ、土方さん?」
「…」
「ひじかたさ」
「いいから」


ぎゅうぎゅう、煙管とは違う煙草の匂いがする。
嫌いではない、むしろ好む方だ。


目の前のこの男は何も言わずにただ抱き締めてくれている。
こういうところが嫌なのだ。
折角決めた覚悟をいとも容易く崩し去っていく。
それでも真選組を出る、という事はもう決めた事であり、今更止めようとは思わないけれど。



「…っ、土方さ…」
「屯所…、帰るか?」
「…へい」



そのぬくもりはきっと、
自分に一番欠けているものなのだと思う。


雨はいつまでも降って、冷たく濡らしていた――







「――どうした、総悟」
「晋介、」


外をボンヤリ眺めていると背後から愛しい声がした。
雨音で少し聞き取りづらい。


「いやね、雨やまねぇかなって思って」
「なんで」
「嫌いなんでィ」


気が付けばぎゅうと背中を抱き締められていて。
仄かに煙管の匂い。


雨に煙管の匂いに抱き締められる感覚。


あのぬくもりを思い出すには充分過ぎる材料。


目を閉じて雨の匂いや音に酔いしれていると、ぽつり、小さな呟き。



「俺も、嫌いだがな」
「なんで」
「…教えねェ」
「あっそ」
「拗ねるなよ」



振り向くとおでこに降ってきた優しいキス。
大好きなそのキスに素直に喜べないのは多分、この雨音のせいだと思うけど。



雨音と共に蘇るのは、
あのぬくもりと、
ただひたすらに罪悪感。



確かに今、幸せだけど。
置いて行ってしまったあの人達を想わずにはいられないのだ。




「…やっぱり雨ァ、」


嫌いでィ



言おうとした言葉は深いキスと激しい雨音にかき消された。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ