頂
□らしくない
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そんなに特別何かあった訳じゃない。
なんだか、ふと甘えたくなった。
別に寂しいわけじゃない。
かといって全く寂しくないわけでもないけど。
本当に、特になにもなかった。
でも、ただ、甘えたかった。
部屋の扉を開けると、俺の愛する人はいつも通り仕事をしていた。
特別なにか言うわけでもなく、こっちも向かずにただ仕事をこなしていた。
「何の用だァ?総悟。」
仕事をしながら俺にそうたずねるその声も、その背中も何もかもが愛しく思えて、思わずぎゅっと背中に抱き付いた。
土方さんの背中は凄くあたたかくて、なんだか安心した。
「どうしたんだ?総悟。」
土方さんの優しい声が、背中からきこえてきた。
いつもとはちがう、ふたりの時だけの優しい声のトーンになんだかまた愛しさを感じた。
"なんでもない"そうこたえたけれど、実を言うとなんでもないって訳でもない。
だって現にこうして俺は今、自分らしくない行動をしてるから。
「最近、仕事ばっかであんまり構ってやれなくてごめんな。」
なんだか、その一言に土方さんの不器用な愛情がつまってる気がした。
その一言には、多分、たくさんの意味が込められているんだろう…な。
俺は土方さんに抱きつきながらそう思った。そして、首を小さく、横に振った。
だって、土方さんの仕事が多いのは仕方がないことだし、むしろ自分のせいだと思うから。
それでも、土方さんにはおれのことばっかり考えてほしいから、やめる気はないんだけれど。
「一緒に寝るか。」
そう言った土方さんに、俺はぎゅっと抱きつきながら首を縦に振った。
いつも言わないけれど、俺は俺に優しくしてくれて、なんだかんだ言いながらも俺の我が儘をきいてくれる土方さんが大好きだ。
なんだか今日は、いつもよりも素直になれてて、たまには、こんな日も悪くないな、なんて俺は土方さんに抱きつきながら思った。
そしてそのあとは、普通に、布団にふたりで寝た。
土方さんは俺に腕枕をしてくれて、土方さんの体温に触れて安心しきってしまった俺はそのまま眠りについてしまった。
次の日の朝、ふと目をさますとまだ土方さんが眠っていて、気付かれないように軽くキスをした。
いつまでも隣にいてくれますように…という祈りを込めて。
end.