脱色

□どんなに願ったって
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片腕をとられて、自分の血の紅へと倒れ込む直前、思い描いたモノはたった一つだった。



(、らんぎく…、)



ボクの名を呼びながら泣き叫ぶ乱菊の髪を撫でてやりたいと思った。
残念ながら、腕はかたっぽしかなかったし、残された腕が動かせる程の気力もなかったから、それは叶わないけど。


綺麗な瞳いっぱいに涙を溜めた乱菊は、出会った頃の彼女と何も変わらなくて。
ああ、これが、ボクの何よりも大事な女の子、なんやなあ、なんて。


何も伝えずに終わってしまうけど。
それは確かにボクが望んだ事で、それでエエんだけどどこかもどかしい。
やっぱり、大好き、って言いたかったなあ。
好きや、好き、愛しとる。
なあ、乱菊。



(泣くな、言うたら怒るやろなあ)



痛みのなくなった体と、霞む視界と、急激に襲ってきた眠気で、死期が近いことを悟る。
ボクはまた君を置いていってしまう。



前を向いて、歩いていってほしい。

ボクの事を忘れて、酒ぎょうさん飲んで、そんでたまには仕事して…
幸せになってくれたらいい。




「 !!」




(泣かんといて、乱菊)


アカンなあ。
ごめん乱菊。さっきの取り消しや。


好きなだけ酒飲んで、好きなだけ仕事サボって、そんでたまには仕事して、幸せになって、




せやけど、
ボクの事忘れないで。




どれだけ時が流れても、周りの誰がボクを覚えてなくても、どうか、どうか、ボクを忘れないで。
愛しとる、愛しとる乱菊。
最期まで護りきれなくて、ごめんな。





「(ばいばい、乱菊)」





また、いつか、
会えたらエエな。




どんなにったって

(それでも、)
(願う事は自由やから)



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