脱色

□唯一の未練
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満月だ。
死神になる前、遥か昔に見上げていたような綺麗な満月。
護る力が欲しくて死神になったのに、あの頃と今とではたいして何も変わらない。


「市丸隊長?」


ずっと窓から空を眺めているとお茶を持ったイヅルが不思議そうに首を傾げていた。

隊長なんぞと呼ばれてもまだ足りないのだ。
形だけでは意味がない。
まだ、人一人を護りきる力まで程遠い。



「どうかしましたか?」
「ん〜?月が綺麗や思て」
「そうですね…」


このままでは一人だって護りきる事は出来ない。
自分はまだ弱すぎる。
強くならなければいけない。


「なーイヅル」
「はい?」
「僕が何で死神になったか知っとる?」
「知りません」


護る為や。
あの小さな女の子を。

そう、そのために自分は強くなってきた。
そのためだけに死神になって藍染隊長について行く。
あの子以外はどうでもいい。
誰を裏切ったってあの子が幸せならそれで良かったのに。
…本当にそう思ってたのに。



「なんですか?」
「…教えへん」


月の灯りでイヅルの髪がキラキラ光る。
綺麗やなあとか。
月なんかよりもよっぽど綺麗だと思う。
嗚呼、守りたいもんなんか増やすもんじゃない。


「…なあ、イヅル」
「はい?」
「もし僕が、死神止めて此処の敵んなる言うたらイヅルはついてくる?」
「…何言ってるんですか」


ふっ、とイヅルが目の前で柔らかく笑う。


「全力で隊長を止めますよ。僕の職務が増えます」


それでこそ副隊長だと思う。
これなら大丈夫だろうな。
少なくともイヅルがいるなら僕は大丈夫だ。


「只でさえ大変なんですから。ほらこれもですよ」
「イヅルの鬼ー」
「普段隊長がサボってるからです」


守りたいもんなんか増やすもんじゃない。
愛しいもんなんか増やすもんじゃない。
どうしてこうも一緒にいたいんだろう。


少し残念だったりする。
イヅルが僕についてきてくれるって言ったら一緒に連れて行こうと思ったのに。


『全力で止めますよ』


そんな事言われたら、
連れて行くわけにも行かない。



「…ごめんな」
「何か仰有いました?」
「なーんも。イヅルこれ手伝ってくれへん?」
「それでも半分位僕がやりましたよ」
「げぇ〜、ホンマか」




愛しい存在よ
願わくは、
どうか君が血に染まらぬ道を。




唯一の未練

(本当は、)
(ずっと一緒にいたい、なんてな)
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