□ひとくちぶんの青春
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花巻貴大は、岩泉一のことが好きだ。



「ちょっと、岩ちゃん!」
「うるせえグズ川ボゲェ!!!」


平和だなあと思う。
及川が岩泉に怒鳴られてるのは平和の証だと、ずっと思っていた。それはたぶん、青城の男バレの中では共通理解だ。
一人を除いては。


「ねえ、マッキーも何とか言ってよ!」


花巻貴大。通称マッキー。
花巻にとっては、この状況が平和だとは言い難いに違いない。

「今のは及川が悪い」
「なんかマッキーいつもそれじゃん!」
「いつもてめえが悪いんだよボケが!」
「岩ちゃん痛い!」


いたいいたい、岩ちゃんの愛が痛いよとふざける及川に、それでも構わずに殴り続ける岩泉、それを見つめる花巻。
仲の良いバレー部、それに間違いはないんだろう、ただそのベクトルが複雑なだけ。
花巻はじゃれ合う二人を見つめるとき、本当に一瞬だけ切なそうに眉を顰める。


「うっし。じゃあ岩泉サン、そんなのほっといて、恒例のやりましょーや」
「はっ、何回やったって結果は変わんねーけどな!」
「マッキーも飽きないねえ、腕相撲」


最早昼休みの恒例となっている花巻と岩泉の腕相撲は岩泉が勝つところまでが恒例。案の定今日も岩泉が勝った。

だーー!とか、くっそ、とか騒いでる花巻は悔しげだが、目的が勝つことじゃないことくらい目に見えてる。


予鈴がなると、駆け足で及川が教室を飛び出していく。俺も行かなければ遅れる。



「花、」
「んー?」


だけどその前に。
俺はいつも助言をしてやる。



「今日もにやけてた」
「…バレバレね」


困ったように笑った花巻は気をつけるわと、今日も同じ言葉を吐く。気をつける気もないくせに。




(これは秘密の話だけど、)

俺は岩泉の手を握った時のほんとに愛おしそうに目を細めて口元を緩める花巻の表情が実は結構お気に入りだったりする。



(ばかなやつ)


花巻貴大は岩泉一が好きだ。

俺は、
松川一静は岩泉一に恋焦がれる花巻貴大に恋をしている。
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