他
□好きの代わりに
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そのたった一言を言うだけの事が、どうしてこんなにも難しいのだろうか。
今更分かりきっている疑問は応えを出すのが嫌だから、いまだにぐるぐる胸の内で回っている。
良いんだ、これで。
僕は間違ってもそんな気持ちをもっちゃいけないんだから。
「なあ、なんか、言うことねえの?」
「……うん、ごめん。」
「そうじゃねえだろ」
そんなことを言われたって困る。
他に答えを持ち合わせていないんだから、(それは彼もわかっているのだろうし)否定するなら聞かなければいいのにと思う。
どれだけ同じことを聞いたって僕は彼の望む答えはあげられない。
「謝んじゃなくてよ、その、つーか、謝られたって俺は変わんねえし、だから」
「ジャン」
「いつまでだって追いかけてやるから、さっさと折れちまえよ、バカ野郎!」
ジャンはその言葉通り、この意味のない問答をずっと続けている。
やめる気はないらしい。(迷惑なことに。)
ジャンとは特に名のない関係だった。
同期たちの中の1人というだけで、特別仲が良かったわけでも悪かったわけでもない。少し喋ったことはあるけれど、それだけだ。
ジャンは、違っていたみたいだけど。
「好きだ、ベルトルト」
「…ありがとう」
「好きだ」
「……ジャン」
いつになったらこの問答は終わりを迎えるのだろうか。
ジャンはいつまで続ける気なんだろう。
本当に、迷惑きわまりないのに。
(僕は故郷に帰らなきゃいけないのに)
彼の言葉は、重い。
(僕も、××だよ)
言葉にすることは許されることじゃないから。
どうか彼が、僕をちゃんと嫌ってくれますように。
僕が彼らに殺されるとき、彼らが何の未練もなく僕を殺せますように。(できたらそれは避けたいけれど)
「君はいつまでも僕を追いかけてきてね、ジャン」
そして僕の最後は君の手で。
好きの代わりに
(僕の気持ちはあげられない)
(代わりに僕の最後をあげるから)
秘めた想いは涙とともに流れて消そう。