銀魂 腐弐

□ねぇ愛しい人よ、
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「久しぶりですねィ」
「…」
「本当、久し振り過ぎて、」
「……総悟、」


「反吐が出る」




ねぇ、愛しい人よ




爆音、の直ぐ後、煙。
俺達が不意を突かれるなんてことは、監察が情報をつかめないだけの相手って事で。
つまりは、かなり手強い野郎共の集団って事で。
桂か、なんて考えは一瞬の内に消え失せた。
立ち上る煙の中久し振りに見た、あの、色によって。



「変わってませんね、アンタのその憎らしい顔も」
「…てめぇが居るってことは、高杉の仕業か」
「お堅いこって。ちょっとは昔話に付き合ってくれたっていいのに」
「黙れ」
「おー、こわ」



くすくすと笑う様子が、本当に以前と何も変わらなくて。それが酷く腹立だしい。



「はは、あの頃はアンタが憎らしくて仕方なかったけど」
「……」
「今となっちゃ、本当にアンタを殺せるんですねィ」
「…馬鹿か、てめぇなんかにゃ殺せねぇよ」



俺の隣にいたときより少し伸びた薄茶色の髪が風に揺れる。
前髪に隠れるように見える紅は、それはもう、俺の知っている蘇芳色じゃなかった。
人を斬る奴の、色。



「俺がてめぇを斬る事に迷いなんか一つもねぇ」
「酷ぇなァ」
「だが、その前に一つだけ聞いておく。…何で高杉についた?」



至極単純な疑問だ。
あれだけ近藤さんに懐いていて、真選組というよりは近藤さんの為に戦っていたような男だ。
何で、そんな総悟が。
よりにもよって、高杉に。



「…近藤さんは俺が欲しいと思ったものをくれる。いつだって俺の事を考えてくれる。」
「じゃあ…!!」
「だけど、」


「晋介は俺を愛してくれる」



きっぱり、言い切ったその言葉を理解するのに少し時間がかかってしまった。
あれ、晋介って誰だよ。あ、高杉晋介。高杉か。
あれ、何で高杉を呼び捨てしてるんだコイツ。あれ。



「それにね、気付いてないかもしれないけど、近藤さんもアンタも俺を一度だって対等に見てくれた事ってないの」
「んなこと……っ」
「ずっと、それが嫌で嫌でたまらなかった」



総悟は確かに笑っているのに、笑ってない。わけがわからない。
真選組の黒い隊服を脱ぎ捨てたその体は変わらずに細くて、しなやかで、綺麗だと思った。
髪を払う仕草から腰から刀を抜き出す仕草まで、全てに無駄が無くて、仕事が大嫌いでサボってばかりだった総悟からは想像も出来なかった。



「アンタにはきっと分かんねぇでしょうよ。だからこうして道を違えた」
「………」
「俺は、アンタ達じゃなくて晋介についていく道を選んだ」



抜き身の刀を持った総悟が、ゆっくり近付いて来る。
刀を持った総悟には勝てない。わかっている。早く逃げねぇと。このままじゃ死ぬ。
わかっているけど。
それでも真っ直ぐに俺へと向かってくる総悟から、どうしても目を離す事が出来ない。
だって総悟が。
総悟、が。



「俺も相当嘗められてまさァ」
「っ!」



躊躇いなく振り下ろされた刀は物凄く重かった。
この細っこい腕のどこにそんな力があるんだか。
刀は交えど、心は交えず。
総悟が何を抱え、何を思って野郎についていったのかなんて、わからなくて。
気が付いたら、もう後がないくらい追い詰められていた。



「…っ、は」
「…そういうところが、嫌いなんでィ」



アンタはいつだってそうだ。

一つ一つの言葉の意味がわからなくて、ただ音の羅列だけが頭にぐわんぐわんと響く。
真選組の斬り込み隊長は、敵になるとここまで厄介だとは。



「っ、殺す、か」
「まさか。今のアンタなんか、殺すにも値しない」
「、そうかよ」



ああ、やっぱりもう知らない。
こんな獣の目をした男を、俺は知らない。
コイツはもう、俺の知っている沖田総悟ではない。
頬を伝ったのは、汗ではなく。



「ふ、いい気味ですね」
「…何が、」
「アンタが俺を想って泣くの」



そんなわけない、けど。だけ、ど。この滴は。
泣いているのか。
そうだ、だって。
ずっと隣にいた総悟は、確かに目の前に立っていて、それでも俺はコイツの何もかもを知らない。
俺は何年もの間一体コイツの何を見てきたのだろう。
俺は何も知らないんだ。



「総悟、…」
「…」
「そうご」
「…」
「総悟」
「…何ですか?」
「…俺が知ってるお前は、もう名前しかねぇんだよ」
「はは、違いねぇ」



小さく俺を嘲笑った総悟は、きっとそれも含めて俺の事を知ってるんだろうな。
だから笑っていられる。



「もう、行かなきゃいけねぇ」
「……だろうな」
「その前に一つだけ」



その言葉は俺が本当に最後に聞いた、俺の知る総悟の声だった。





ねぇ愛しい人よ、
僕に会えないと夢の中でも泣いた?





泣いたよ。
お前がいない世界は何もなかったから。


そうか、
愛しかったんだ。




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