銀魂 腐弐
□君がいるからなんとか生きているんだよ
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いつだか、斬り捨てた浪士どもの残骸に俺は刀に似ていると言われた。
『使い手がいりゃあ、輝けるんだろうがね。何しろ使い方が荒いから、その内刃はこぼれてどうにも出来なくなるよ』
それはもしかしたら、死ぬ直前の皮肉だったのかもしれない。
憎たらしそうに血を吐いて、倒れた死体はただ光のない目で俺を見つめていた。
底のない闇のような色がしつこくまとわりついて鬱陶しい。
「刀だってさ」
一人の空間で呟いた言葉は当然のように空に消えた。
刀だって。
笑っちまうな、本当。ははは。俺はよく斬れるでしょう?
どかり、腰を下ろす。
血生臭いのが気になったが、疲れが勝った。
ふと辺りを見渡せば俺が斬り捨てたモノがごろごろと転がって。
ああ、気持ち悪い、なァ。
「正義…ね、」
浪士共は正義の為に刀を振りかざし、正義の為に幕府を討とうと立ち上がり、そして正義の為に俺達と刀を交えるらしい。
そして真選組は正義の為に幕府を守り、戦うんだとか。
はは、矛盾してらァ。
正義って、なんでィ。
俺にとっては幕府なんてぶっちゃけどうでも良くて、ついでに言うと攘夷浪士だってどうでも良くて。
刀を握り締めて人を斬ることしか能がねェ俺の正義は。
「総悟、」
そう、このテノール。
優しい優しいあったかなテノール。
「粗方片付けましたよ」
「おう、じゃなくて」
ぐい、俺の顔を拭いた土方さんが目を細める。
…あ、土方さん、右頬に返り血。
「怪我は」
「してねェ」
「そうか」
「右頬、血」
「ん」
先ほどの死体へと目を移せば、相変わらず色のない瞳がじっと見ている。
馬鹿だねィ、俺という刀を扱う奴が並の奴なわけねぇだろ。刃こぼれはしてるかもしんねぇけど。
斬り捨てた奴に対して、何も思わない程切れ味のいい刀ではないけど。
「帰るぞ」
「へい。近藤さんは?」
「先に戻った。…総悟」
ほら、何よりも愛しい貴方のこえ。
「頑張った、な」
ぽん、軽く頭に乗せられた大きな手。
じわり、広がるぬくもりに全てを委ねる。
やっぱアイツ等馬鹿だったなァ。
確かに使い方は荒いから、刃は酷くボロボロかもしれないけど、その後研げば何回だって使えるのに。俺の愛しいこの人は手入れがしっかりしてるから。
その証拠に、
俺はこのぬくもりさえあるなら、何回だって刀を握れるし。
「ひじかた」
「なに」
「帰ったらちゅーして」
「…うん」
ぐしゃぐしゃ、俺の頭を撫でる手は乱暴で、あったかくて、どこか優しくて。
ああ、そうだ。
俺は貴方がいないと使い物にならないよ。
君がいるからなんとか生きているんだよ
きっとさ、
俺にとって貴方は空気のような存在で。
側にあるのが当たり前で、だけどなくなったら生きてはいけない。
それがどういうことだか解る?
貴方をどうしようもなく愛してるってことだよ