銀魂 腐弐

□君の一番近く
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俺は万事屋が嫌いだ。


何で、とかどこがって聞かれたらそりゃいっぱい出てくるけど、そんなんじゃなくてとりあえず気にくわねェ。


アイツはいつだって飄々としててつかめなくて、気付いたらみんなアイツの周りに集まっていく。言いたかないが、カリスマ性とかいうやつだろう。
俺はいつだって心のどこかで、アイツにだけは勝てないと悟っていた。
だって、ホラ。


「「あ…」」


今、俺の目の前で万事屋が唇を重ねたのは、俺の絶対的な存在。
大きな紅い瞳が驚いたように俺を見つめる。

「…巡回サボってイチャつくな総悟。そんなヒマあんなら屯所で始末書片せ」
「ッチ。土方のKY。空気読んでくだせぇよ死ね土方コノヤロー」
「テメェが普段から真面目に仕事しねェからだ」

すごく、イライラしているのに頭はやけに冷静だ。
渋々俺の後をついてきた総悟はまだ何か言っていた。
ふと、わずかに殺気を感じて振り返る。
そこには笑顔の万事屋。


「じゃあ、またな沖田くん」


一瞬万事屋と目が合ってすぐ逸らされる。
…ああ、全然冷静なんかじゃねぇな、俺。
さっさとここから総悟を連れ去りたくて仕方ねェや。

やっぱり万事屋は嫌いだ。


***


「…ぅ、あ?」
「あ、目が覚めたんですね副長!」

真っ白な天井。薬品の匂い。
ズキズキと痛む肩。
理解した事はここが病院だという事。
目覚めたばかりの頭では何故病院にいるのかは思い出せなかった。

「今、局長や沖田さん呼んできますね」

パタパタと山崎が病室を出て行く。
はっきりしない頭でぼんやりと扉を見ていると、そこへ入ってきたのは。


「よぉ、マヨ方」
「…誰がマヨ方だ腐れ天パ」

万事屋の野郎。


「何でテメーがこんなところ…」
「テメェ、沖田君かばったんだって?」

肩斬られただけで三日も眠りやがって。
沖田君がどんだけ心配したと思ってんだ。
万事屋の言葉で、ああそういえばそうだっけとようやく思い出した。
だからって何でテメーがいるんだ、と思い切りにらんでやればいつもの死んだ魚の目じゃなくて、もっと鋭い目で睨み返された。

「万…」
「本当、ムカつくよなァ、テメー」

ため息混じりに呟かれた。
何言ってんだ、そりゃこっちの台詞だ糖尿ヤロー。
そう言い換えそうにも、殺気を帯びた瞳が、なんと言うかまるで、鬼に睨まれているかのようで口が動かない。


「俺ァ、愛されることは出来たって、沖田君の側で沖田君を守ることは出来ねェ」


真っ直ぐ俺を見る瞳は赤々と燃えて、どこか総悟の瞳と似ていた。


「テメェしか沖田君は守れねェんだよ。いつまでもこんなところで寝てんじゃねェ」


バタン、と扉の閉まる音がした。


「言いたい事だけ言いやがって…」

確かに、俺はいつだって総悟の側にいてやれる。
守ってやれる。護ってやれる。
万事屋には出来ないけど、俺には出来るって優越感。
愛されることはなくても側にいてやることは出来る。


「はっ…、俺が、護ってやるよ…」


一番近くでまもってやれるんだ、
一番側に居る事が出来るんだ、
幸せだろう?だから、


泣くな、俺。

『側に居る事は出来ても、愛されることはない』


君の一番近くにいるんだ
(それでもお前は、)
(気付く事は、ないんだろうけど)

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