銀魂 腐弐

□心、響く。
1ページ/2ページ



久しぶりに見た土方さんはいつもと変わらない優しい瞳で俺を見ていた。
そして、もう刀すら握れない俺の手にそっとキスをおとして笑った。


「ただいま、総悟」


おかえり、と言葉を紡ぐも音は出ず。
それでも土方さんは理解してくれたようで、ベッドに伏せたまま起き上がる事の出来ない俺の頭をかるく撫でてくれる。
その心地よさに軽く眠気が襲う。


「また、ちょっと痩せたな」


それはお互い様でしょう、と頭に乗せられた土方さんの手を見て思う。
相変わらず男にしては随分と綺麗な手をしているけれど、いくらか細くなった。
刀を強く握っているのか、掌もぼろぼろ。
この人の隣で戦えない事が酷く腹ただしい。
また無茶してんですかィって目で問いかければくしゃくしゃと髪をかき混ぜられる。


「大丈夫だよ。辛い時はお前思い出して乗り越えてっから」


恥ずかし気もなく言い切る土方さんに思わず笑みがこぼれた。
キザな野郎でさって音もなく笑うと、安心したように目を細められる。
それに合わせて目を閉じれば唇に優しく触れる、土方さんのそれ。


「キザじゃねぇよ。おまえも、俺を思い出して生きろ」


土方さんの低いテノールが耳にあたたかく響く。
俺はその言葉に対して思い切り首を振ってやった。
アンタを思い出すときなんてないって笑ってやった。
どう頑張っても声は出ないけど、やっぱりこの人は解ってくれたみたいで困ったように眉間に皺を寄せる。


「なんで」


少し拗ねたように俺の髪で遊ぶ土方さんがなんだか可愛らしかった。
だからこの人の瞳を真っ直ぐ見つめてしっかりと言葉を紡ぐ。


「              」


伝え終わった後、本当のキザはお前じゃねぇかと土方さんが泣きそうに笑うもんだから、つられて俺も泣きそうになった。


心、響く。


(アンタのこと思い出す日なんてねぇのは、)
(アンタのこと忘れたときがねぇから)


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ