銀魂 腐弐

□傘拍子
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「        」


溢れた声はきっと音には為らなかったと思う。
音になるには小さすぎて、突然降ってきた雨音に全てかき消される。



「        」



もう一度、今度は意図的に音にはせずに、その言葉の羅列をただ唇でなぞる。
だんだんと見えなくなる背中は、二度と俺を抱き締める事はないと言っているように見える。
直接言われた訳ではないがしかし、もう以前のような関係には戻れないと、空っぽの頭でもちゃんと理解していた。






最初に想いを伝えたのは果たしてどちらだったか。
よく思い出せないが、それでも確かに土方さんの言葉は俺の心に真っ直ぐ触れて、心地好く染み渡っていったのだ。
俺はそんな言葉を持ってはいなかったし、今も持ち合わせてはいないけど、何か少しでも感じてくれたら、とか思う。
ほんの少し位、同情してくれたって良いでしょう?
だって全部がアンタの為だったんだから。





『総悟』



一緒に居たときは何れだけ雨が降っていても聞こえた、俺を呼ぶ優しい声。
並んで歩く度に何度も何度も笑って囁かれた俺の名前。




『俺の名前がダーリンとかだったら良かったのに』
『なんで?』
『そしたら名前呼ぶ度に恋人通しみたい』
『…馬鹿、』



呆れたように髪を撫でるその掌が好きだった。


馬鹿か、病院行って来い。なに、照れてんのアンタ。照れてねぇ。いや、照れてる。つうか総悟のままでも恋人だろ。ですけど。それにお前の場合ハニーだろ。殺されてェんですか。


下らない事言い合って、馬鹿みたいに笑って。
そんな日常が当たり前だったからこれ以外考えられないんだ。



雨が強くなって少し大きめの雨粒が頬を流れ落ちた。
…冷たい。
後ろ姿の土方さんは、もう、見えない。



アンタの前でだけ息が出来たら良かった。
そしたらアンタの為だけに生きたって良かったのに。
理屈がなかったら俺はアンタの為だけに生きるなんて器用な真似は出来やしないんだから。



これからも俺はきっとアンタを護る剣にはなれる。なります。アンタが近藤さんを護って、俺はそのアンタを護ります。アンタを護るっていう、アンタの人生の中の役割を果たします。




俺がもし、アンタの愛をうつす鏡だったらきっとこんな風にはならなかったかな。
女々しいですね、でも。





嗚呼、雨が強くて良かった。
アンタがいなくて良かった。
この涙が、俺しか解らなくて良かった。


俺は今泣くことしか出来ないけど、だけど、


それでもやれるだけのことはやったつもりです。




…大好きだったアンタへ、
小さな小さなサヨナラを。





傘拍子
(アンタを想う気持ちは)
(多分ずっと変わんないんだろう、な)


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