□闇に帰ろうか
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「闇色さん、泣いてるの…?」


薄暗い部屋の中から聞こえる小さな声と音に反応して、襖を開けてそう訪ねてみた。それでも返事は返ってこなかった。


「闇色さん、寂しいのね…市も寂しい。」
「家康、が…ぁ…形部…っ」
「大丈夫、大丈夫よ…市、今から長政様と兄様に会いにいくの」
「秀吉、様…」
「だから、闇色さんも。一緒に逝きましょう?…ふふ」




世界が、闇に呑まれる
辺りが、暗く暗く




***


「石田ぁっ」


いつもは冷静な筈の毛利が隣で大きな声をあげた。薄暗い屋敷を進み、石田の襖に手をかけた。
だが、なにかがおかしい。
確かにこの屋敷は薄暗いが、石田の部屋だけ暗いのだ。
闇のように、暗い
襖のむこうで、闇が蠢く


「…はやく開けろ、長宗我部」
「え?あ、あぁ」


ごくり。と息をのみ襖を開けてみた。
中にはいつかに大谷といた女がいた。
闇を纏った細い体に、光のない黒い瞳。
同じように闇を連想させる長い黒髪。


その女がいつも一緒にイる闇色の何かが、石田を抱えていた。その石田を愛しそうにみている女。


「…なにを、している」
「…だあれ…?ふふふっ、闇色さんに会いに来たのね?」


そう言って、また「ふふっ」と女は笑った。

「でも、闇色さんはもういないの…市もいくのよ、一緒に…」


俺達じゃない、どこか遠くを見つめたその瞳に吸い込まれそうになる。


「貴様っ…石田に何をしたっ」
「…ふふっ、ただ市は夢を叶えてあげたの…闇色さんが幸せになれるように」


それをきいて「違うだろ」と声がでた。続けて何かが溢れたように言葉を繋ぐ。


「幸せに?なにをいっているんだ。ただお前が1人でいたくないから、石田もつれていくんだろ」
「…貴方、嫌い」


そういって俺を睨む。図星か。ただ、俺達の言葉なんてどうでも良くなったらしく。ゆっくりと上を見上げた。


「長政、様…兄様…」


そういって、どこかにむかって手を伸ばした。ふらふらと出口に、俺達に近付いてきた。毛利が武器を構える。


そして、走り出した。


「貴様ぁっ!」


だけど、女にあたる前に闇の手に邪魔をされる。そのまま投げられて裏庭にある灯籠にぶつかった。


「毛利っ!」


返事は、なかった。俺が後ろの毛利を心配してるうちに、石田をつれて女はふらふらと進む。俺を素通りして、闇にまみれていく。


一瞬だけ近くでみた石田が、いつもより青白くて。でも、なんだか幸せそうに微笑んでて。


一気に、熱が下がる。
あぁ、そうか。
石田は、本当に救われたんだ。なんて
気がつけば女はもういなくて。
でも、あとを追おうとは思わなかった。


願うはただただ
愛しき男の幸せ






***


「ね、闇色さん」
「…」
「そっちは、幸せかしら」








(さぁさぁ、帰ろう)
(暖かい闇に2人で)
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