死ネタ 30題

□26空に消えた煙に誓います
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カラスが鳴いた。
まだ明るい夕暮れ、ふと煙草の臭いが鼻を掠める。
はあ、とため息を一つ溢せば白い息となって消えた。
案の定そこには土方がいた。



「あんた、俺のストーカーかなんかですか」
「馬鹿言え。ストーカーは近藤さんだけで充分だ」


そうは言うものの、どこに足を運んでも気が付いたら近くにいるもんだから、ストーカーと勘違いされても仕方ないだろうと思う。
薄暗くなる空がなんだか闇に包まれていくようで、もう一つ息を吐く。
今度はさっきよりも白く染まった息が空気に溶けた。


「…怒んねェんですか」
「怒られてぇか?」
「いや、ちがくて」
「今日はサボりじゃねぇだろ?」


線香の匂いが服に染み付いてると言われてしまえば、もう言い訳のしようがなくなってしまった。
冷たい空気に思わず息を詰める。



今日は、三周忌だった。
あの優しい銀色がいなくなって三年。
俺とあの人が出会って、そう長くない間あの人は数えきれない程沢山のモノを残していった。
今だって目を閉じれば、沖田くんと心地よくあの人の音が広がる。


突然、あの人が死んだと聞かされたって信じられなくて。棺の中に横たわるあの人はまるで眠っているように穏やかだったから。
悲しくて、寂しくてどうしようもなかったんだあの頃は。いつでもあの人がひょっこり出てきそうだったから。


ただ、幸せそうだった。
静かに眠るあの人が幸せそうだったから、何故か泣くなと言われた気がしたんだ。



「で、もう済んだのか」
「済まなかったらここにいやせん」
「まあそりゃそうか」


土方さんは新しい煙草に火をつけ、深い闇に白い煙を吐き出した。
ゆらゆらと立ち上るそれは、あの人が旅立ったあの日の煙に似ていた。
ぽん、と軽く頭に置かれた手がグシャグシャと髪を撫でる。
…大丈夫だよ土方さん。


ねぇ、旦那。
あんたはいなくなってしまったけど。
それでも俺の世界には生き続けていて、今も、側にいてくれてるって、信じてるから。



「…もう、泣かねェよ」



はきっと、今もに。



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