死ネタ 30題

□13息絶えるときくらい笑ってろ
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「…呆気ねぇよ、」
「う、る、せぇ」



途切れ途切れに聞こえる掠れた声。その合間合間にヒューヒューと嫌な音がなる。
元々あまり好きではなかった真っ黒な制服の所々がどす黒い紅に染まっていくのが不愉快だ。


刀を握りしめた手は己の血で紅く染まり、倒れ込む端整な顔はそれと比例するように酷く青白い。
そこら辺に散らばった死体は全て背景に溶け込むくせに、土方は何故か浮かび上がるようにはっきりとしている。



「鬼の副長だろ?死ぬんじゃねぇよ」
「…っ、無茶、言うな、天パ」
「天パ馬鹿にすんなコノヤローぶっ殺すぞ」
「はは…む、しろ、ありがてぇ」



何言ってるんだ、いつもの冗談だろう。いつもみたいに罵声で返さねぇとテメーらしくねぇよ気持ち悪ぃ。
言いたい事は山程あるのに、喉奥に張り付いて音にならない。空気が重くて、脳内にちらついた言葉は全部押し潰されていく。嗚呼、駄目だ、何か言わないと、頭では確かにそう思うのに、口は開かない。



「…ひじかた」
「…」



もう声を出すのも億劫なのか、視線だけちらり向けられる。
開きかかった瞳孔は辛そうに細められそれでも真っ直ぐに俺を捉えていた。



「死んだらゴリラ達が悲しむ」
「……はっ、そ…かよ…」


苦々しく笑ったその顔は苦痛に歪められて、駄目だ。
小さく小さく呻き声をあげた土方はきっとどれだけ頑張っても、もう長くはないだろう。
そうだ、人の人生なんてそんなもんだ。
どれだけ憎かろうが愛しかろうが散るときは呆気なくてあっという間。



「……よ、………ずや…」
「あ?」
「……なに、泣いて、ん、だ」



指摘されて初めて自分の頬に滴が伝っていることに気付いた。
本当、なに泣いてんの、俺。


ただ、目の前でもう僅かにしか動かない土方が、段々とその命を終わらせていくのが、痛い。
土方が、ただの一度でさえも俺の名前を呼ばずに短い一生を終えようとしているのが、辛い。


嗚呼、苦しいんだ。




「…ばっか、てめ、これは鼻水だバカヤロー」
「……そ、かよ…」


ふ、と少し柔らかな表情をした土方はしかし、けほとむせて眉間に皺を寄せる。
ふと土方の隊服に目を向ければ、紅、どす黒い、紅。
見ていて気持ち悪くなるような、強烈な紅。





「…ぎん、と……き」
「あ?」


初めて紡がれたその音に少しばかり驚いていれば。
土方は確かに、言った。





「          」





今、一番聞きたかった言葉。
いや、ずっと言いたかった言葉。


ずるいなあ。
そうやって置いていくくせに人を縛る。


だから、
そういう所が好きだったのかもしれないけど。





息絶えるときくらい笑ってろ


(本当は、)
(ずっと愛してた)



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