死ネタ 30題

□01願えど君は戻らない
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青空が広がっていた。

そこに、綺麗な紅が飛び散った。







願えど君は戻らない







よく、晴れていた。
太陽の光が眩しくて、傘の下に隠れるしか出来ないのに、憎たらしい程青空で。
なんだか、ムカついていた。






吉原へ行ったとき、久しぶりに兄に会った。
夜兎としての本能が出て、血に溺れて、自分をなくして――


そのいつ自分がいなくなるかの恐怖と、相手を殺すときに覚える甘美な味が忘れられない。




だから、出来れば暫くは一人でいたかった、のに。




とにかく、紅を求めていた。
自分を保つのに必死で。
戦いを嫌い、遠ざける自分も、戦いを好む自分も、確かに自分で。ああ、訳が分からない。



だから、気が付かなかった。
普段ならその気配で解るのに。







「よう、チャイナ」








――心地好く鼓膜に響く声に振り向いて、




紅が、よく似合いそうだ。




なんて考えてしまった後のことはよく覚えていない。




ただ、気がついたら、
自分の前に、密かに想いを寄せていた薄茶色の髪が、その黒い隊服を真っ赤に染めて倒れていた。


蘇芳色の瞳は、固く閉じられていた。













彼は――、
沖田総悟は、多分、私に殺される程弱くはない。


殺されそうになれば、逆に反撃して私を殺す事だって容易に出来た筈だった。






『アイツは、お前を殺したくなかったんだよ』

『いや、殺せなかったの方が正しいか』

『お前を止めるには、自分を殺させるか、お前を殺すしかなかった』

『総悟は…お前を殺さなかった』





彼の葬式で、
彼の上司はそれがどういう事だか解るな、と小さく呟いた。





涙が、零れた。







願えど君は戻らない


(ごめんなさい、ごめんなさい)
(大好きなんです)

(お願いです戻ってきてよ)

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