死ネタ 30題

□12最期は全部ぼくのもの
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「なんて、顔」
「お互い様だよ」


ふわり、まるで花が綻ぶように笑った。
それは俺が今まで見てきた、いたずらっ子のような子供っぽい笑顔でも、嫌がらせをしてきたときの皮肉っぽい笑顔でも、討ち入り前の獣のような笑顔でもなかった。

今にも泣きそうな笑顔は、悲しいことに今まで見てきたどの笑顔よりも酷く美しかった。



「…アンタって人ァ、思い通りにいかない奴でィ」
「それもお互い様だ」


身体の神経がマヒしているのか、痛みは一つも感じない。
が、だんだんと言うことを聞かなくなる身体に、嫌でも死期が近い事を気付かされた。
刀を握ったままの手が震える。


確かに大きな討ち入りだった。
覚悟は、あった。

ただ、その覚悟は生きる覚悟なのか死ぬ覚悟なのかと問われれば、限りなく死ぬ覚悟に近い。
それはつまり、総悟を残して逝くと言うことだったんだけど、理解していたんだけど。



「…もう、逝っちまうの?」
「悪いな、」


視界が悪くて、目を開けているはずなのに何も見えない。
手を伸ばして、多分、総悟の頬に触れてもそのぬくもりは分からない。伝わらない。
だから、表情なんて分からないのに、嗚呼泣いてンのかなんて。
第六感ってやつなのかな。


「アンタァっ、俺に殺されるんじゃねぇの…!?」
「…誰が、お前なんかに」


言葉を発しようとしても呂律がうまく回らなくて、言いたいこと、山程あるんだけど。
声すら出せなくなってきたから、きっともう終わりなんだろう。


「土方このやろっ…なんで、こんなとこで死ぬんでィ…!!」
「……そ、…ご…」


もうすぐ自分が消えると言うのに、心の中を占領しているのは、恐怖でもなんでもなく、
ただ、幸せ。


今までお前の心の片隅、多分ほんの一部にしかいれなかった俺が、

今は、全部、ぜんぶ。



「愛……っ……る」


自分はこんなにも独占欲が強かったかと思わず苦笑してしまう。


なあ、今お前の中にいるのは誰?


嗚呼、幸せ。



「土方ぁぁぁああぁあ!!!」




最期は全部僕のもの
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