銀魂 腐

□彼は脆かった。
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初めての討ち入りだった。
沖田さんが逝ってしまってから、初めての。

多分副長は平静を装ってるつもりなんだろうけど、内心凄くイライラしてるのは誰が見ても明らかだった。


「斬り込み隊長は総悟じゃねぇ。が、俺達のするこたァ変わらねぇぞ」

いつもよりいくらかドスのきいた低い声が鋭く合図を出した。

俺は副長の後ろで刀を振っていたけど、今日の副長はすこぶる機嫌が悪い。
歯向かう浪士共をそれはまさに鬼の形相でねじ伏せていく。
あっという間にラストの一人だ。

「たっ…頼む、助けてくれ…」


震えた声で浪士がよろよろと倒れ副長に必死で命乞いをする。
それを見つめる副長の瞳の、なんて冷たい事だろう。


「…テメエは今日、どんな一日を過ごした?」
「へっ…?」

副長の刀を握る手が震えて、よくよく見たら紅い滴がポタリ。
血が滲む位刀を握り締めてるんだ、声は静かだけど相当イライラしてる。
このままだったら俺まで殺されちゃうんじゃないかと真面目に不安になるくらい。


「酒たらふく飲んで?好きなだけ女抱いて?ダラダラ寝て?…」
「ひっ…」

殺気が一気に膨れ上がった。
気分が悪くなってくる。
副長の瞳は瞳孔が大きく開いていた。


「その何でもねぇ一日はっ、総悟がどうしようもなく生きたかった一日なんだよっ!!」
「ギャアアア!!!」

グサリ、浪士の腹に副長の刀が深く刺さる。
大きく上がる悲鳴。
副長の目が少し潤んでる気がした。
でもそれは俺も同じでその場に固まって動けなくなってしまった。

「総悟はっ!辛くて苦しくて、それでも頑張って!!生きて…!!」
「う、あ…あああ!!」

ぐちゃり、嫌な音をたてて副長の刀が浪士の体を何度も貫く。
その内、悲鳴をあげていた浪士がぐったりとして動かなくなった。…死んだなあ、ありゃ。
でも、副長はなかなか手を止めなかった。


「何で…総悟は死んだのにっ、テメエみたいなのが生きて…なんでだよ…総悟はっ…!!」
「副長!」
「総悟はまだ18だったんだよ!まだ先があったはずなのにっ…総悟はまだ!!」
「ふくちょう…!!」
「何で総悟が死ななきゃいけなかった!?総悟が何をしたんだよ!総悟は…」
「土方さん!!!」

名前で呼べば漸くその手を止めて、はっと我に返った。

「…や、ま崎…」
「…もう、死んでますよ」
「…そ…だ、な」

眉間にグッと皺を寄せて辛そうに目を細める副長を見て、こっちが辛くなってしまった。
本当、そんな泣きそうな顔しないでほしい。
俺にも伝染する。


「…悪ぃ、山崎。それ、片しといてくれ」
「はっはい!」

フラフラどこかへ歩いていく副長は、放っておいたらどこかへ消えてしまいそうだった。


一つ一つの命に重さは変わりないと聞いた事があるけれど。
本当にそうなんだろうか?

今副長に、原型をとどめぬ位に殺されたこの浪士と、
死ぬときまで尚、美しかった沖田さんの命は同じ?

どれだけ強くても美しくても、
散るときはあっという間。
この浪士のような奴等はそこら辺にゴロゴロ生きているのに。



「…神様って不公平だよなあ」



ぼそり、
小さな俺の呟きは誰にも届くことなく空へ消えた。





彼は脆かった。
(病気だった沖田さんの方が)
(よっぽど強かった)
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