銀魂 腐
□何も言わずに手を振った
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瞳を閉じれば何時だって、
思い出すのは貴方の笑顔。
「また、痩せたな」
病室独特の真っ白い世界の中、ぼやける視界の中でもはっきり分かる黒髪。
「それはお互い様でしょ…」
この人がいなきゃ声なんて出さないもんだから、久しぶりに出した声は妙に掠れていた。
本当、少しみない間に随分痩せた。
俺が病院に寝たきりになって、この人と一緒に戦う事が出来なくなってから一体どれくらいたったんだろうか。
優しくて優しくて、どうしようもなくあたたかった近藤さんがいなくなってからどれくらい時間は流れたのだろう。
「お前程じゃねぇよ。てか声掠れてんじゃねぇか、黙れ」
「久しぶりに出したから…問題ありやせん」
俺に触れるこの人の手が、酷く優しくて涙が出そうになった。
その手が傷だらけな事が、酷く悲しくて涙は堪えきれなかった。
「何、泣いてんだ総悟。苦しいのか…?」
「苦しいに、決まってまさっ…アンタが、辛いんだ…けほっ」
貴方に頑張らせている。
貴方は一人何もかも守ってくれている。
俺には、何も出来ない。
この人が辛くても、
この人が悲しくても、
ただ見ているだけしか出来ない。
苦しいに決まってる。
「泣くなよ総悟。咳、酷いぞ」
「ア…タは、けほけほっ!…ボロボロ、じゃねぇか…」
頑張ってるの、知ってるんだ。
きっと誰より辛いはずなんだ。
なのに、なんでこの人は、
こんなに優しいんだろう。
なんでこんなに自分の事は後回しなんだろう。
「大丈夫か総悟…」
「げほっ…アンタが…、大丈夫、じゃね…げほっげほっ!!」
「俺は大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃないくせに。
辛くて辛くてどうしようもないくせに。
あのね。
確かに俺は辛いんだ。
頭痛いし、心臓あたりが痛いし、咳をすれば血は止まらないし。
でもね。
貴方の痛みや苦しみに比べたらずっとずっと楽なんです。
貴方の痛みも俺がもらえたらいいんだけどなあ。
「…はっ、ぅく……じかた…さ…ごめ、なせ」
「何で謝ってんだ。お前は頑張ってんじゃねぇか」
優しく頭を撫でてくれて、だけど俺の口から出た血を見てとても悲しそうな顔。
そんな顔しないでよ。
俺は全然辛くないんだよ。
辛いのは貴方なんだよ。
ごめんね、土方さん。
「大丈夫か?…」
「…っ、へィ…」
安心したように笑って。
本当、大好きでしょうがない。
強くて優しくて格好良くて。
「総悟、」
ふわり、口に温もり。
優しく触れたそれは。
「愛してる」
寂しそうに笑う土方さんを見て、直感してしまった。
「…俺のが、愛してまさァ」
だから俺も、笑顔で。
「じゃあ、もう行くな」
「へィ。土方さん、」
「ん?」
「いってらっしゃい」
「…ああ、行ってくる」
本当は腕だってなかなか動いてくれないんだけど、何故だか今日は素直に動いてくれて土方さんに手を振ることができた。
病室のドアを閉める音が響くと途端に睡魔がおそってきた。
一瞬だけの、優しい触れるだけのキスを思い出して顔がほころんだ。
ねぇ、土方さん。
俺は貴方に、
『いってらっしゃい』
としか言わないよ。
言わないから。
何も言わずに手をふった
(さよならとは言えなかった)
本当は分かってたよ。
貴方と会えるのが、
これで最後な事くらい。