銀魂 腐

□『愛してる』と囁いた
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例えば、
俺がこんな顔じゃなかったら、
姉上の弟じゃなかったら、何か違っていたんだろうか?







「…………………」
「どうした?食わねェのか?」
「……土方さん、俺ァ辛いものはあんま好きじゃねぇでさァ」
「んだよ、遠慮してんのか?テメーらしくねぇな、食えよ」



姉上がいなくなって、土方さんはおかしくなった。


優しい優しい目をするのに、その目に俺は映ってない。
誰に話しかけているのか不思議になるほど、俺の声も聞こえてない。



「………いただきやす」
「おゥ、」


土方さんは、昔に比べて随分優しくなった。
俺にもよく笑ってくれるし、愛してると囁いてくれた。


でも、それは。


「……土方さん、」
「ああ?」
「…俺の事、好きですかィ?」


「何回も言わせんな。愛してるよ」


俺の頭を撫でる手が酷く優しいのは、きっと土方さんが俺に向けて頭を撫でているわけではないからで。
つまりは、
俺と姉上を重ねて姉上を愛してるだけなわけで。

土方さんは、俺を愛してると言うけれど、その秘めた想いなんてスケスケなんだ。
そもそも、土方さんの中に俺は生きているのかさえも正直微妙なところなんだよ。


「うめぇか?総悟…」
「……だから、好きじゃないんですけどねィ……」
「あ?」


俺の呟きは聞こえなかったらしく不思議そうな顔で下から覗きこんでくる。


「総悟、」
「何です…うわっ!!?」


引き寄せられたと思ったら、ふわりと土方さんの煙草の匂い。
抱き締められていると気付いて急に恥ずかしくなった。


「…いきなりどうしたんですかィ?」
「近い内に休みとってどっか行くぞ。行きたいとこ考えとけ」
「…………え?」


言ってる意味が分からなくて、土方さんを見上げる。
土方さんはふっと、とても優しく笑った。

土方さんとは長い付き合いだけど土方さんのこんなに優しい顔は一度しか見た時がない。


姉上と話している時しか。


「最近忙しかったからな。近藤さんも休みくらいくれ…ってオィ!!?総悟!?どうしたお前…」
「え?何……あ……」


ふと顔に手をあてると頬に滴が伝っている。

あれ?
俺泣いてたんだ……。
ガラでもねェな、笑われちまう……。


「どうした総悟……?」
「…や、わかんねェ…でさァ。気に、しないでくだせぇ…」



だって。ねェ土方さん。


アンタ、ちっとも俺なんか見てないんじゃないですか。


ほんの少しも俺を想ってなんかいないじゃないですか。


姉上に向けた想いの百分の一でさえも俺を見ちゃいねぇんだ。
俺に愛してるって囁くくせに。


「大丈夫か……?」
「土…方さん、」
「あ?」


「……俺は、愛してまさァ」


「おぅ。つか俺はって何だ、俺はって。普通俺もだろ」
「………いいんですよ、」


ねぇそんなに嬉しそうに笑わないでくだせぇ。
俺は姉上じゃないのに。
どうか気付いて、
俺の言葉の本当の意味に。


俺は、
アンタを愛してるけど。

アンタも、
俺を愛してると言うけど。


ねぇ土方さん。
そろそろ俺を愛して下せぇ。











『愛してる』と囁いた(だけどそれは、)
(果たして誰に向けたのか)
 

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