銀魂 腐弐

□それでハッピーエンド。
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青空、快晴。
麗かなる春の日。
くわえた煙草の煙が、空高く昇ってゆく。


「まっさか、テメェがなあ。」

かっちりとタキシードを着込んで、その特徴ある前髪もかっちり上げて。
隊服以外に身を包んだその姿はなんだか少しだけまともに見える。ほんの、少しだけ、な。

うるせえよ、なんて悪態をつく土方はそれでも緩んだ口元を隠そうともせず、幸せそうに微笑んだ。


青空、快晴。
麗かなる春の日。
柔らかい風が吹く。

クソマヨニコ中の土方十四郎は、今日、結婚する。


「なんだかんだで世話になったな、てめえにも」
「なんかそのセリフをテメーに言われると気持ち悪いからやめてくんない?」
「オイコラ、どーいう意味だ!」

仕事まみれの鬼の副長がこんな風に笑うようになったのはいつからだったろうか。きっと、彼女が支えてきたからこその笑顔なんだろうけど。


「ふくちょーう!もう準備してくださいよー!お嫁さんがお待ちかねです!」
「ああ、」

相変わらず地味なジミーの声でのっそりと歩き始めた奴の後ろ姿が、不覚にも男前だと思う。
あれでいて律儀な男であるから、きっと何不自由なく幸せな家庭を築いて行くのだろう。




「…こんなとこにいたの、沖田くん」
「あり、見つかっちまいましたか、旦那」

隊服ではない黒に身を包んだ彼が何食わぬ顔をしてそこにいた。

「バレバレに決まってんだろばーか」
「何でもお見通しですねィ」

温かな風に薄茶色の髪が柔らかく靡く。その蘇芳色は遠くを見つめていて、目の前にいる俺に焦点を合わせようとはしない。


「もう会いました?幸せ最中の土方コノヤローとは」
「デレデレしちゃってなんなんだよ、まったく。いつもにましてキモかったな」
「全くですぜ。鬼の副長ともあろうお方が」

ぶつぶつと呟く沖田くんは相変わらずのポーカーフェイスだ。
その奥の表情に気付いたのはいつだっただろうか。


「いいの?」
「…姉上のことなら、それはいいんです。姉上はあれの幸せを望んでたんだ、優しすぎるから」
「違うよ」

違うんだよ、沖田くん。

「お前だよ、沖田くん」



それに気付いたのは、もう随分前だったと思う。沖田くんのポーカーフェイスが唯一崩れる場所が、あいつの前だけだったこと。

沖田くんがずっと土方十四郎を想い続けていたこと。



「…はは、お見通しかっ、」

渇いた笑い声をあげた蘇芳色が微かに揺れた。アンタはずるいなあ、なんて頭をかく姿が随分と大人びていて何とも言えない気分になる。

俯いた彼がどんな顔をしているのかはわからない。ただ、嘲りのような、諦めのような寂しい顔をしているんだろうと容易に予想はできたが。


「…いいもなにも、俺は男ですぜ、旦那」

ぽつりと呟かれたこえは存外、しっかりと耳に届いた。

「野郎が誰と結婚しようが、それは俺がとやかく言うところじゃねえ。そうでしょう?実際、姉上がいなくなった後の野郎を支えたのはきっとあの人だし、これからだってそうだ。野郎のそばにいるべきなのは、あの人なんでさ」

顔を上げた沖田くんの表情は、予想を裏切らずに、何かを諦めたような顔だった。

「沖田くんはどうなるの」
「今更結婚くらいでどうもなりやせんよ。今までだってそうだった」

本音を言うなら、姉上と幸せになって欲しかったけれど。と、彼は小さく笑った。

彼の、さも土方の命を狙っているとでも言うような行動は、沖田くんがまだガキであることを証明する一つであったのだ。
上手に自分を表現できない不器用な男なのだ。野郎と並ぶにはあまりに幼い。

男同士だとか、姉貴がどうのとか、死んで欲しいがどうとか、結局はぜんぶ土方十四郎という男への執着なのだ。悔しいことに。沖田くんが彼へ向ける感情で俺が勝てるものは、残念ながら、ない。情けないことに、たったの一つでさえ。土方十四郎という男は彼の全てを奪っている。


「沖田くんさあ、」
「はい?」
「馬鹿だねえ。ほんとに」
「はは、どうも。」


憎たらしい青空は彼の諦めきった微笑を切なく美しく彩る。

この土方十四郎に心囚われている哀れで愚かな少年が、同じように少年に心囚われ想い続けている男がいるなんて思いもよらないのだろう。
それでもいいと思えた。

きっと俺の心もとらわれたまま、彼の心もとらわれたまま、何も知らないまま、美しいままで。


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