銀魂 腐弐
□これは自分への別れの言葉
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情けない、顔だ。
いつもなら馬鹿みたいに寄せられた眉が八の字に下がって、鋭い瞳は変わらずだけど、その視線は罰が悪そうに下を向いている。
何でそんな顔してんだか。
まさかちっともバレてないなんて思っていたのかな。
「知らないわけ、ないでしょう?」
「総悟…」
さて、そんな顔を続けてるってことはやっぱり気付いていないと思ってたわけだ。
馬鹿だなあ、この人。
俺がどんだけこの人の側で、近くで、隣で、この人を見てきたと思ってるんだろう。
どんだけ、アンタを想ってきたと思ってるんですか。
『アンタが一番好きな所は、俺の顔でしょう?』
『ああ?…何でそう思った?』
『顔は、そっくりだからでさ』
『あ?』
『姉上に』
だって、アンタは一つも否定しないから。
馬鹿みたいに真っ直ぐだから、不器用で、嘘なんか吐けなかったんでしょうどうせ。
アンタ、優しいからね。
でもさ、優しいんだったら、最初から俺を好きだなんて、言うんじゃねぇよ。
「なぁ、土方」
「………」
「俺はガキなんでィ」
「…うん」
「アンタしかいらなかったのに」
「……うん」
「でもアンタだけはどうしても欲しかったんだ」
まるでショーウィンドウに飾った玩具をねだる子供のような。
届かないものに必死に手を伸ばして、でもどうしてもほしくて、ずっと見つめているような。
ただ何かが違うとすれば、俺は玩具ならなんでもいいわけじゃなくて、そのショーウィンドウに飾ってある玩具だけが欲しかったってこと。
簡単に言うなら、他の誰かじゃ駄目で、アンタしかいらなかったってこと。
「あの、ね」
「……なに?」
「アンタはさ、罪悪感と同情が混ざった目でしか俺を見たことないの」
「……は?」
土方さんの掠れた声。
低いテノール。
「アンタが俺を純粋に沖田総悟として見ていた時期なんて、武州の頃の、ほんの一瞬しかない」
「それはっ…」
「他は、いつも誰かの代わり」
ぐっと、握り締めた拳が汗をかいて気持ち悪い。
土方さんの目が微かに揺れた気がしたけど、そんなの知らんこっちゃない。
ガキってやだね。すいやせん。
だけど、止める気は更々ない。
「なんだかんだ言っても、アンタは優しい人だと思ってた」
「……っ、」
「でもちっとも優しくねぇよ、アンタ」
「そう…っ」
「姉上の代わりで、俺をそういう目でしか見てくれなくて、なのに」
一度息を吐いてそして、土方を真っ直ぐに見据えて。
真っ黒な髪、鋭い灰色がかった青い瞳、暴言しか吐かない優しい口。
全部、全部、大好きだったのになあ。
「…なのに、俺の名前を呼ぶんだ。愛してると言うんだ」
「………総悟、」
じわり、視界が滲んだ。
愛してるの意味をわかってないんじゃないのかな、この人。
いや、違うか。
わかってて、姉上を重ねて俺の名前を呼んでたのか。
ああ、なんて、残酷な。
「……確かに、好きだったよ。ミツバのことは」
「………」
「だけど…今更だけど……俺は、総悟のことだって見てた」
「……でも、愛してはいない」
「………」
本当、今更でさァ。
俺のこと見てたって?
知らないの、見てたのと愛してるのは違うんですぜ。
本当、本当に、今更。
「ねぇ、土方さん」
「な、んだ」
「…これ以上、俺を惨めにさせないで下せェ」
つう、と頬を伝った滴はじんわり暖かかった。
もう、終わりにしようよ。
あんなに、馬鹿みたいに好きだったのに、終わりは一瞬だ。
少し、寂しい気もするね。
でも、何よりも大切だったんですぜ?
あ、違うか。
何よりも大切なんです。
今だって。
もう、形だけでも恋人なんて名で隣に立つことは出来ないけれど、それでも。
「ばいばい、土方さん」
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我が儘な自分にさよならを。
欲張りな自分にさよならを。
もう、なにものぞまないよ。
だから、アンタを護る刃にでもなって、
アンタの隣に在り続けたい。
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