銀魂 腐弐
□狂
1ページ/1ページ
「ひっじっかったー!」
「おわっ!!」
「ッチ、避けてんじゃねェよ」
「ちょ、今思いきり舌打ちしやがったかオィィ!!?や、避けるよね?普通バズーカ打ってきたら避けるよねェェ!!?」
「土方さん、腹へりやした」
「切り替え早くね?何?奢れって言ってんの?」
「団子でいいですぜ。さ、行きやしょう」
「ったくよ…」
「おばちゃーん!いつものセット下せェ」
「よく食うなーオイ。それ一本貰うぞ」
「どーぞ。…あり?」
「どうした」
「土方さん、マヨは?」
「あ?」
「マヨ。今日は犬の餌になってねぇ」
「んなもんさっき全部ぶっ飛んだわ」
「そりゃお気の毒に。…ぷっ」
「今笑ったかコノヤロー。おかげさまでタバコまで吸えねーんだぞ」
「それくれェにしときなせェ。死にやすよ」
「…だよなあ。そろそろタバコもマヨも止めっかなあ…」
「…アンタがそんな事言うなんてねィ。明日は吹雪でさァ」
「何言ってんだ、明日も快晴だよ。…もう食い終わったよな」
「あ、ちょ待って下せェ。今レシート…」
「ほらよ。1690円」
「…え?」
「あ?」
「……何で、値段知ってるんですかイ、しかも正確に」
「んなの、いつも奢ってやってんだろ?」
「な…に、言って…俺ァここアンタとくんのは初めて…」
「アンタ、ね…」
「何言ってんでさァ、ひじか…いっ…!」
「どうした?」
「っ…、頭、いた…」
頭が痛い。
そう言って、沖田くんは静かに崩れ落ちた――。
***
「ここにいたんですか、旦那」
「今日は遅かったなジミー」
申し訳なさそうに沖田くんを探しに来る、監察。
沖田くんは意識を失ってこそいるものの、うわ言のように土方さん、土方さんと繰り返している。
ジミーは沖田くんをおぶりながら、今にも泣きそうな声でごめんなさいと呟いた。
「別にいーさ。…それよか真選組は平気なのか?」
「まだ、どうも慣れなくて駄目ですね…。今までずっと副長に頼りっぱなしでしたから」
土方は、死んだ。
討ち入りの最中、それも沖田くんの目の前で。
沖田くんは、泣いて声が嗄れるまで叫んで、多分壊れてしまったんだと思う。
翌朝、俺を見て『土方さん』と笑った。
「…沖田くん、は?」
「医者は…治るのなんて期待出来ないって。精神的なショックが大きすぎたんだろうって…」
「…そうか」
今度は完全に涙声で、ごめんなさいと言われた。
別にジミーが悪いわけじゃねぇし、謝る必要なんてないと思ったけど、言葉には出来なかった。
なァ、沖田くん。
この団子屋、土方と来たときはないかもしんねぇけど、俺とは何回も一緒に来たんだぜ?知ってた?
その度いつものメニューで奢ってやってたんだぜ?
マヨもタバコも吸わねーよ、だって俺は、『土方十四郎』じゃねェから。
沖田くんの前では土方でいると決めたけど。
やっぱ俺は『坂田銀時』だから、ちょっと辛い。
「旦那は…、いいんですか?」
俺の心の内を見透かしたようにジミーが問うてくる。
やだよ、嫌に決まってる。俺は坂田銀時で、坂田銀時として沖田くんが好きだから、やだ、嫌だ、土方じゃない、違う、土方じゃ……
「ひ…じ、方さん…」
「「!!?」」
小さく小さく聞こえた沖田くんのアイツを呼ぶ声。
おそらく寝言だろうその声を聞いたら、何か全部どうでもよくなった。
もう、いい。いいや。
俺はもうお前の前で絶対に『坂田銀時』にならねェ。
お前が息を止めるその日まで、ずっと『土方十四郎』としてお前の側に生き続けてやるから。
「土方さ…」
「…愛してるよ、総悟」
呟いた先、山崎の涙が見えた。
狂
(チクリと痛んだ心には)
(見ないフリして蓋をしよう)
.