たんぺんもの


□雨ん中
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湿気た空気が更に重くなった。
汗のせいなのか、開けた窓のせいなのか。
ベッドの上に横になった近松は帰ってしまった三吉を思い、ぼうと雨を見ていた。
告白は敗れた。
敗れた恋であった筈だ。
なのに、気付けば近松と三吉は肌を探り合った。


近松、近松


三吉が熱に浮かされた様に呟いた。
呼ばれる度に欲が増した。
あんな声で呼ばれて、こんなことをして。
近松が三吉を忘れる事ができるはずもない。
期待しない筈もない。
けれど三吉は何も言わなかった。
ただ、三吉に近松がほぐされて穿つ度に泣きそうな声で近松を呼んだ。
欲に塗れた声で。


近松、近松


唇にキスをすれば三吉は応えて、腕を近松に回した。
三吉は近松にキスをねだった。
ねだる顔が、いつもの三吉とは違った。
あまり表情をかえる事がない癖に、縋る顔していた。
はじめは、男と経験があるのかと思った。
経験があるから同情で抱かれたのかと思った。
違うと気付いたのはそこに触れた時の三吉の反応が、怯えていたからだ。
三吉は、同性愛を嫌悪していたのに近松に抱かれた。
けれど、三吉は何も言わなかった。
男に抱かれたのに、理由も、何も。
期待してもいいのかも、近松を好きなのかも、気まぐれなのかも、何も。
何も言わなかった。
近松はただ、窓の外に流れる雨と雨音を聞いていた。


近松、近松


耳の中で、三吉が呼んでいた。
数時間経ったのだろうか?
気付けば、近松は眠りこけていた。
時計を見れば夕方を針が指していたのを見てはあ、と溜息をついた。
全身を覆う倦怠感に近松は気を紛らわす様、髪をかきあげた。
まだ眠りが足りない、と体が声を発していたのをいい事に近松は眠りを選んだ。
目を閉じれば三吉の事を考えずに済む筈だと思っていた。


俺、近松が好きだ


耳に三吉の声が滑り込んで来た。
夢の中にいた筈だ。
夢なのだろう、と近松はまた眠りに落ちようとしたのだが、ほとりと頬に落ちる水滴に覚醒した意識。
瞼がまだ重い。
目が開く前に三吉の抑揚の無い声がまた続いた。


俺もう駄目だ、好きだ。


そう言っては水滴がほとほとほと頬に落ちる。
目を緩やかに開けば三吉がいた。
ベッドに眠る近松の脇でずぶ濡れで座っていた。
がばりと近松が身を起こすと三吉の目が近松を見た。
冷え切った体に二つの目がいやに熱く近松を見ていた。
「三吉」
「近松、俺どうしよう」
三吉が、そう、言った時には近松が三吉を抱きしめていた。
水をしっかりと吸い込んだ三吉の服が剥き出しの肌に触れて冷たく近松を苛んだ。
湿気た空気がさらにはらんだ。
三吉の腕が近松を抱きしめた。
「俺、近松が好きだ。ホモなんて」
「俺は前から三吉が好きだ」
「近松」
温かい水が肩にある。
泣いている、と近松が気付いたのはすぐの事。
声を殺して三吉が泣いていた。
冷えた体を近松は抱きしめるしかできないで、ただ抱きしめる。
「近松」
濡れた声が首で聞こえる度に深く抱きしめる。
三吉の体を深く。
「近松」
三吉の手が抱きしめた近松の腕を捕らえて、ベッドの上に押し倒す。
情けない声を出した三吉の目が欲を見せていた。
近松は嫌がる事もなく、その、行為を受け入れていた。
夜遅くまで。






しと、しと、しと。
雨が空を覆った。
暗い空が近松と三吉を覆った。







次の日が来ても、一年経っても近松も三吉も変わらなかった。
同性を好きになっても変わらなかった。
変わらなかった。
ただ、好きなだけだった。
近松は忘れない。
三吉は忘れない。




雨に抱かれた日を。






















END









□後書き□
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
肩がこりました…、あたしの中では本当、毛色の違う小説もどきだったんで、完結するまで非常に肩がこりました。
何故自分でま暗い話しを書こうとしたのか不思議です。
駄文散文ではございますが少しでもお楽しみ頂けたら幸いでございます。


吉家[キッカ]
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