たんぺんもの


□雪の中の気持ち 下
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そうして俺にある肉体を駆使する事に結論が至る。


それからは早かった。
嫌悪と吐き気と誇りをねじまげ、つばきに春日を喜ばせたい、性技を教えてはくれぬかと精一杯の恥じらいを込めてそう告げれば。
つばきは歓喜し、兄の為と。
髪を初日に結った女を指導者として呼び入れた。
そこから実践こそないが張りぼて相手の修練となった。
三週間程すればくの一の太鼓判を貰うほどとなった。
今日こそ、それを実践とする日だ。
俺は笑みを浮かべた。
暗く、復讐に捕われるだけの笑みとは知らぬままに。



夜半。
春日の来訪があった。
俺は見向きもしない。


−春日は男女共に遊びなれてるからね。帰還してからの三夜は身体を許しちゃ駄目だよ。焦らす事も大切さ。


くの一の手ほどき通りに俺はつれないと言われる態度を取った。
しかしだ、春日の前で俺は態度を緩めた覚えが無い。
これが効果を持つのか半信半疑である。
第一、春日は強引そのものである。


くっ


首元の着物を背後から引っ張られ、身動きしづらいその着物のせいで受け身さえままならず、俺は背後にいた春日の身体に落ちた。

「………」

それでも声さえ聞かせぬ。
目さえ合わせぬ。
表情さえ変えぬ−…ああ、恥ずかしげに目を伏せよと言われたのであった。
思いだし、少し顔を逸らし目を伏せる。

「気持ち悪い。くの一にでも手ほどき受けたか」

春日には見通しだったようで、顔に不愉快とばかりに歪んだ表情をつけている。
それでも目を向ける事なく、ただ溜息を吐いた。


−だが春日にはすぐにわかるだろうからげんなりされるだろうよ。そうなったらね、あんたらしく居直りな。そんで、一言言えばいい。


身体を起こし、黒頭巾を剥ぐ。
みすぼらしい頭が曝される。
春日の反応は特にない。

「好意は露ほどにない。ただひたすらに欲が溜まっているだけよ」

そう、一言言うと春日は笑った。
目を細め、口を歪めて笑う様は如何にも楽しそうだ。
つ、つと手を上げればつばきに手入れをされた毛のない腕が曝される。
白くも柔らかくもない男の筋肉質な腕である。

「よく言う。あんたは欲望より誇りを尊ぶだろ?」

「ひとは見掛けによらぬ…」
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