たんぺんもの


□雪の中の気持ち 下
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雪は、冷えた肌にさらに降り積もる。
まるで生気のないそれは人形の様だ。


しんしんと
雪は降る。


赤い血に白いその身を染めながら。


しん、しん、しん



Title雪の中の気持ち










信じる方が無理な話だ。
あの態度と目で惚れた、は信じても、依頼主を殺す等。
信じる方が無理な話だ。

だが目前に広げられたのは塩漬にされた男の首。

しかも

「大蔵様…?!」

我が国の勘定奉行だ。
目を見開いた。
一月前にお目にかかった時はご健勝だったはず。
しかも奥方様、ご子息様ともに仲のよい家族と認識していた俺は眉を潜めた。

「狸、さ。」

怪我ひとつない春日がそう言い放つ。
この時、嘘を言えと言葉を発することはなかった。
気を失った時、覚えている血の臭いと確かに大蔵様の声。
狸が大蔵だと確信できてしまったのだ。
手にとることもなく、俺は背を向けた。
そして一言。

「その首、野犬に食わせよ」

「はは。いいよ。」

そう言ってつばきを呼び付けた。
呼ばれたつばきはすぐに姿をあらわし、幼女というのに慣れた手つきでそれを持ってでていった。



一ヶ月前より俺の生活は一変した。
緋色の着物を着せられ、まるで稚児の様な出で立ち。
年齢21にもなろう男が着るものではない。
しかも髪も伸ばす事が決められていた。
一ヶ月程度の時間では毛を剃っていたところが全体的に短いが生えて来たくらいで、みすぼらしい。
鏡を見ることはないが流石に不愉快であった。
外へ出ることも叶わぬという状況。
そんな折の春日の帰還である。




一つ、弟の復讐を果たした。
心内で弟に語りかける。

−我が手で殺すことはできなんだが…一つ復讐は果たした。冥府にて残りの男の死を待つが良い…

緋色の着物の長い袖から手を出し、そっと首のあったところへ手を這わせ、優しい色と暗い色を混じった視線をそこへと向けた。
既に春日の姿はない。
長に呼ばれたという。
後は春日のみ。
いかにして陥落させ、いかにして寝首を掻き切るか。
一ヶ月の間俺は考えていた。


そうして俺にある肉体を駆使する事に結論が至る。



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