たんぺんもの


□どうしても離れたい
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釈然としないままも素直に従うと恋人(馬鹿)は風呂場へ消えた。

あらかた写し終えたアドレス帳を閉じ、携帯のメモリを全削除。

むしろリセット。初期化。


アドレス帳には自分の情報を一切載せてない。


しかも来週、俺は引っ越しする。

都内だが。しかもここから車で30分の距離とはいえ。
仕事も転職。
共有の友人には固く口止めしておけば問題ない。


俺はさっさとその場を後にした。








一ヶ月が経つ。

安息の日々だ。
馬鹿の面倒も見ることがなく、浮気の心配もしなくていい。
何より独りは慣れると存外楽だった。

引き抜きで入った社はやりがいも大きい上、給与もいい。

順風満帆だ。


そんなある日。



「いたぁあぁあッ!!」


不吉な声がした。

その日俺は、久しぶりの休みに買い物に出ていた。
足休みに公園でまったりしていた時だ。

思わず声がした方を見る。
もちろん、見たのは俺だけじゃなく公園にいらっしゃる皆様方もだ。

喜色満面で走りよるのは、音信不通にし、別れた筈のあの馬鹿だ。

連絡がないだの携帯どういうことだの嫌いになったのだの必死に話し掛けてくる馬鹿に俺はイライラが募る。


「あんた誰」


一切見ず、一切情を乗せず、ただ一言そう言った。
途端に俺の襟首をにぎりしめ、拳を振り上げる馬鹿に俺は叫んだ。


「何するんですか!あんたなんか俺は知らないって言ってるでしょう!警察呼びますよ!」


「……。そんなに嫌いになった?」


「嫌いもなにも知らないですって何度言えば理解してくれますか?」


「俺は好きだよ。」


「だから人間違いでしょう」


「浮気が原因?」


「離して貰えませんか?」


「付き合いだしからだったよな、俺…ごめん。でも好きなんだ、お前が。」


「………………」


「もう二度としないからもう一度付き合えないか?」

「…終わりました?」


「は?」


「離せ。」


「ごめん…でも俺わかってほ」


「二度とこういったことをしないで下さい。次は通報しますよ。失礼」



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