銀時×土方3

□甘さは控えめに
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「土方さん。この際、はっきりと言います」

目の前の椅子に座った男が細い銀縁のフレームを光らせて、おもむろにそう告げた。
土方はごくりと喉を鳴らす。

「好きなものと別れて下さい」

そうはっきりと告げられて、土方は顔色を蒼白にしてがくりと項垂れた。



その日、坂田銀時はいつものように稼ぎに行っていた。
といってもパチンコである。稼ぐと言いながらもオケラにされる日の方が多くて従業員からはいつでも抗議の声が上がっているのだが、そんなものはどこ吹く風だ。
この日は珍しく当たりが出て、ホクホク顔だった。愛しい恋人の為にいくらかを甘味に変えて残りを換金した銀時は、朱金に色付く空の下を足早に人混みに紛れて家路を急いだ。
その足がピタリと止まる。目の前に、といってもまだかなり遠くて常人ではとてもではないが判別も付かぬぐらいの距離ではあるが、黒い人影を見付けた。その背恰好からすぐさまそれが何よりもかけがえのない恋人だと判断した銀時は、どびゅーんと効果音が付きそうなほどの勢いで走りだした。

「ひぃじぃかぁたぁぁぁぁ!!!」」

そのままの勢いで飛びつこうとして、しかし様子のおかしい彼に気付いて咄嗟に止まった。
仏頂面が標準装備の彼だが、それでも思わず銀時と出会った時だけは違う。土方が自覚しているかどうかは分からぬが、銀時の姿を見た途端、その顔にははにかんだような笑顔が浮かぶのだ。
銀時はその顔を見るのが大好きだった。だからいつも巡視中の彼を探しては突進していたのだが、今回に限っては何やらおかしい。
隊服ではなく黒い着流しを着ているから非番なのだろう彼は、珍しくその口許にトレードマークである煙草を銜えているわけでもなく、銀時の姿を見た瞬間とても苦しげに顔を歪めた。
銀時はその顔に一気に不安になる。彼が今までこんな顔を見せたことはなかった。

「銀時……」
「な、なに……?」

暗く沈んだ声に、とくりと鼓動が跳ね上がる。
一体何があったというのだろう。水に一滴落とされた墨が広がっていくように、どんどんと銀時の中の不安が膨らんでいく。
そしてそれは現実になったのだ。

「俺と別れてくれ……」
「………………………、えっ……?えぇぇぇぇ!?」

土方の言葉を理解するのに、たっぷりと三秒は掛かっただろう。
ようやく理解した瞬間、夕暮れに佇む町中に悲愴な悲鳴が響き渡った。





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