銀時×土方2

□天災は忘れたころにやってくる
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トーシローが立ち寄りそうなところなんて、銀時が知るはずがない。ただ闇雲に大雨の中、銀時は走り続けた。
あれから何度か雷が鳴っている。オオエドには雷なんてあるのだろうか?もし知らないなら、きっと吃驚して怯えていることだろう。
それよりも、もしトーシローが襲われていたらどうしよう、と今まで考えないようにしていたことがむくむくと頭に擡げてきた。
あんなに可愛いトーシローが、無防備に歩いていたら非常に危険だ。襲ってくださいと、餓えた獰猛な肉食獣の前にコロコロと肥えて美味しそうな草食獣を差し出すようなものではないか。きっとよからぬ場所に連れて行かれて、あんなことやそんなことやこんなことなど、とても口に出してはいえぬ卑猥な事を強要されるに違いない。
そんな事を想像してしまい、焦る気持ちを抑えきれず銀時はただ走った。
そしてふと目に付いた公園。
別になにがあったわけでもない。それでも銀時は誘われるようにそこに入っていった。



夜の公園はとても静かで、寂しい。昼間があまりにも明るい笑顔に包まれているため、余計にそのギャップが物悲しいのだろう。
この公園は案外と広い。
確か奥の方に遊具があったはずだ。そこを目指して走っていると、中から何か争うような声がした。
どきんと銀時の心臓が跳ね上がる。走る足が更に早くなった。
視界が突然拓けると、その向こうにはやはり捜し求めていた姿があって胸を撫でろした。
が、トーシローは見知らぬ男に手を取られて、何やら揉めているようだ。そのまま目の前で男がトーシローを引き寄せ、腕の中に納めている。

 てか!あれってキスしてるよなァァァ?1

角度から見ても間違いない。銀時は目の前が真っ赤になった。考えるより先に体が動く。

「トーシロー!!」

銀時は男を引き剥がし、拳を振り上げる。しかし殴ろうと繰り出した拳は、見えない壁に阻まれるようにして弾かれた。それに呆然とした銀時は、いきなり衝撃を感じて後ろに吹っ飛ぶ。

「銀時!!」

トーシローが泣きそうな顔で駆け寄ってくる。強かに打った腰が痛いが、どうにかして上半身を起こした。
一体何が起こったのか、分からない。殴られたわけではなかった。いや。何も銀時には触れなかったのだ。それなのに、まるで空気に跳ね飛ばされたように体が浮いた。

「大丈夫か?!」

トーシローが銀時を支えようと手を伸ばす向こうに、男が立った。その顔には凶悪な笑顔が浮かんでいる。一気に悪寒が背中を駆け上った。

 この男、ヤバイ……!!

咄嗟にトーシローを自分の背に庇い、立ち上がった。

「オメェが坂田銀時か?」

ニヤリと弧を描いた唇が音を紡ぐ。何故自分の名前を知っているのだろう。銀時の方には全く見覚えが無かった。
頷くことで返事を返すと、男はクツクツと喉の奥を鳴らす。

「オメェか?俺のもんに勝手に手ェ出したのは……?」

男の言っていることが全くわからない。自分にとっては全くの初対面なのだ。だが、知らない間に、彼のものに手を出してしまったのだろうか?
年齢は見る限り、自分とほぼ変わらない。だが、男は完全に銀時を気圧していた。
男の手がゆっくりと天に翳される。それを見て、ぼんやりと理解した。

 こいつ、魔法使いか……?

現に男はこの大雨の中、全く濡れていない。
ということは、もしかしてトーシローを狙った刺客かなにかだろうか?確かトーシローはオオエドの王子だと言っていた。

 あ、いや。もしかしてストーカーか?

そういえば先ほど、この男はトーシローにキスをしていたのだ。
どちらにしても、厄介ごとに違いない。全く、天災は忘れたころにやってくる、だ。
思わず嘆息を吐こうとしたが、そんな場合ではない。男は自分に対して、敵意を剥き出しだった。
これは腕の一本ぐらい覚悟しないといけないだろうか?よもや殺されることはないだろうと、背中にいるトーシローを庇うようにして男を睨み付けた。
その途端、トーシローが突然銀時の頭を自分の胸に抱き込む。突然のことに、銀時からムガッと変な声が出た。

「シンスケ!これ以上はダメだ!!」
「やかましい!退け、トシ!!」

 あれ?知り合い?

トーシローの胸の中に抱き込まれた銀時には、周りの景色が見えない。
それでも周りに見えない火花が飛び散っていることは、確かに肌で感じた。


2007.7.7(初出) 2007.7.14(収納)





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