銀時×土方2

□叶う願い
3ページ/3ページ




「そう。分かったわ」

妙はすぐにそう返事した。ということは、今日の逢瀬はこれで終わりだろう。
銀時は切なそうに眉根を寄せて、十四郎の頬を突いた。しかし、次に妙の発した言葉に瞠目する。

「じゃ、銀さん。十四郎を見ててくれる?」

妙はそう言って、十四郎を銀時に抱っこさせたのだ。
吃驚し過ぎた銀時は、大きく目を見開いて、口をぽかんと開ける。

「いい?くれぐれも不埒な真似はしないでね?」

赤ん坊相手に不埒ってなんだ?!、と突っ込もうとしたときには、すでに妙はその場から離れていた。

「十四郎……」

突如手の中に納まった、暖かな温もり。今日の妙は最上級に機嫌が良かったようだ。降って湧いた僥倖に、銀時は嬉しそうにギュッと温もりを抱き締めた。
途端に鼻腔を擽る、甘やかな匂い。赤子特有のミルクのにおいだ。
彼は、土方からは、いつも苦い匂いがしていた。彼が愛飲していた煙草の匂い。それでもそれはとても甘かったのだ。この匂いのように……。

「十四郎……。十四郎……っ!」

この赤子に、恋人の面影を重ねてもいいのだろうか?ふと、不安になる。
それでも銀時は信じたかった。
彼は銀時と交わした約束の為に、自分の元に戻ってきたのだと……。

「う……?」

小さな手が伸びて、銀時の頬に触れる。その手はとても柔らかく、勿論剣胼胝もなにもない、まっさらな手。
自分は恐らく、とても情けない顔をしていたのだろう。見るといつも笑顔の十四郎が、泣き出しそうな顔をしていた。

「ごめんね。なんでもないよ」

にっこりと微笑みかけてやる。
十四郎はまるで鏡だ。銀時のその顔を写し取ったように、にっこりと笑みを浮かべた。

「十四郎。ぎん、って言ってみて?」

名を呼んで。自分の名を、十四郎の声で……。
それで今は、きっと満足ができる。
まるで祈るように、そう告げた。
十四郎は、そんな銀時の心情を読み取ったのだろうか。
ことりと首を傾げ、可憐な口唇を開けた。

「ぎ……」

それは単なる喃語だったのかも知れない。それでも確かに名を呼ばれたと、銀時は思ったのだ。

「十四郎。も一回言って……っ!」
「ぎ?」

勢い込んだ銀時にそれでも十四郎は臆することなく、花が綻ぶような笑みを浮かべて、もう一度声を出した。

「十四郎!!!」

それは銀時の願いを叶えてくれたに違いない。
銀時は泣き出しそうな顔でそれでも笑みを浮かべて、嬉しさの余り、その音を紡いだ口唇にチュッと触れるだけのキスをした。
それと同時だ。

「銀さんンンン!!!」
「銀時ィィィ!!!」

まるで地を這うような声が聞こえた。
銀時がぎくりと体を揺らし振り返ると、そこには十四郎の両親が般若の面で仁王立ちに立っている。銀時の背に、ダラダラと冷たい汗が伝い落ちた。

「私は確か、不埒な真似はしないように、と言ったわよね?」
「え?で、でも、キスだけだし……!!」
「よくも十四郎のファーストキスを!!!銀時ィ!そこになおれェェェ!!!」

近藤がすらりと虎鉄を抜く。白刃に夕陽が当り、綺麗にきらりと煌いた。

「ちょ……!近藤!!それは洒落になんねェよ!!」
「洒落じゃねェェェェ!!!」





この後、新八が姉に毎日泣き暮らしている鬱陶しい雇い主をどうにかしてくれ、懇願してお許しが出るまで一週間。銀時は屯所に出入り禁止の羽目に陥った。
恋人同士になるまでの道のりは、未だ遠い――――





2007.6.17




.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ