銀時×土方2

□叶う願い
2ページ/3ページ




「十四郎!」

銀時の屯所通いはすでに日課だ。
もう陽は傾き、茜色為す空に一番星が控えめに瞬いている。
最近は真面目に仕事しているから、こんな黄昏時間に訪れることが多かった。
妙が歓迎していないことには気付いている。妙の気持ちも分からなくはない。彼女にとって十四郎は自分の子であって、かつての銀時の恋人ではないのだ。
銀時だって十四郎が土方の生まれ変わりだとは信じているが、彼と同じではないということは分かっている。
十四郎は、銀時のことを覚えていない。銀時がどれほど土方のことを愛していたのか。そして彼がその想いに応えてくれていたのか。そんなことを覚えているわけはないのだ。
それでも銀時は、自分を止めることが出来なかった。ただ彼の傍にいたい。そして今度こそ彼に、幸福に包まれた天寿を全うさせてやりたかった。自分が先に逝くことは分かっている。それでも自分の生が続く限りは、彼を見護ってやりたいのだ。
十四郎は銀時を見ると、途端に満面の笑みを浮かべる。本当にそれは純真無垢な天使の微笑み。それを見るだけで銀時は幸せになれた。
そう。十四郎はこんなにも簡単に、銀時を幸せにしてくれる。

「あら、銀さん。また来たの」

縁側で十四郎を抱いていた妙が、呆れたような顔をして銀時を見た。
その声に銀時は走り寄って、妙を無視して十四郎に話し掛ける。

「十四郎!ぎんさんでちゅよぉぉ」

最近十四郎はようやく喋れるようになった。最初に発した言葉は、「ちゃん」。妙のことだ。
それが銀時にはショックだった。
当然のことだとはわかっている。十四郎は24時間妙と共にいて、彼の面倒を見ているのは母である彼女だ。
それに比べて自分は、妙の機嫌のいい時に一時間ほど遊ばせてもらえるだけなのだから、張り合うこと自体が無謀だろう。
それでも銀時は、今度こそ自分の名前を呼んでもらおうと、必死に教え込んでいた。

「私は無視かい。このやろー!」

妙のこめかみにピシリと青筋が立つ。ここで怒らせるのは、得策ではないだろう。抱っこさせてもらえなくなる。

「そんなことねェよ。ねぇ。ちょこっとでいいから、抱っこさせてよ」

縁側から革靴を脱いで、ちゃっかりと上がりこむ。十四郎を覗き込むと途端にキャッキャッとはしゃいで、小さな紅葉のような手を差し出してきた。それに人差し指をくれてやると、ぎゅっと握り締める。そのままで指を振ってやると、十四郎は声を出して喜んだ。

「ちょっと。ちゃんと洗ったの?」
「仕事終わったあとに、念入りに洗ってきてから来たよ」

ねぇ?っと話し掛けると、十四郎はご機嫌だ。相手をしてもらうと、いつでも愛想を振る。もう人見知りをし始める子もいるだろうに、十四郎は周りに多くの人間がいるからか。その兆候は全く見られない。特に銀時に関しては、よく反応する。
どこか魂の奥底に、少しでも想いは残っているのだろうか?
つい、銀時はそんな期待をしてしまうのだ。

「あ、姐さん。局長がお呼びです」

その時だ。突然声が掛かった。山崎だ。彼は銀時の姿を見つけて会釈してきたから、挨拶はしておく。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ