銀時×土方2

□天使の卵 1
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「で?あのバカはそれをあっためてんのか」
「そうアル」

珍しく仕事が早く終わったから連絡を入れてみると、今、外出が出来ないから来てくれと呼び出された。
銜えた煙草を噛み切らんばかりに噛み締めて、真選組副長土方十四郎はこめかみに青筋を立て、目の前に座る銀時を無視して神楽に話し掛ける。ソファーに腰を掛けている銀時の腹はぽっこりと膨らんでいた。まるで妊婦のように……。

「お〜い。聞こえてんですけどォォ!何で本人目の前にいるのに無視するかな、コンチクショー!!」
「一生やってろ、このバカ。って伝えといてくれ」
「いや、だからね。聞こえてんだよ、うん。聞いてる?多串くん」
「多串じゃねェェェ!!」
「聞こえてんじゃん!!」

銀時の当然のクレームにも、土方はケッと声を出す。

「ま、この子ったら、どこでそんなことを覚えてきたの?!そんな風に育てた覚えはないよ!!」
「あーあー。俺もオメェに育てられた覚えなんざ、これっぽっちもねぇな」

その投げ遣りな土方の受け答えに、それでも銀時はめげなかった。

「だって、これ天使の卵だって言うんだぜ?すごくね?これすごくね?」
「銀ちゃん。天使は卵から生まれるアルか?」
「そうか!天使は卵から生まれんだよ!!すげぇ発見じゃん!!」
「いつまでもやってろ。バカ」

土方ははしゃぐ二人を冷たく見据える。
最近は忙しくてなかなか時間が作れなかった。非番なんてとても取れる余裕などなく、食事さえ山崎がにぎったおむすびを頬張るぐらいしかできないほど忙しかったのだ。
それがようやく少し時間が出来て、本当ならゆっくり食事を取って湯船に浸かり、早めに就寝でもしたいところであったのに、真っ先に思いついたのはここだった。
取るものも取らず駆けつけたというのに、なんだこの仕打ちは?腹立ちと悲しみがごちゃ混ぜになり、ぐるぐると土方の中で渦巻いている。
しばらく会えなかったから淋しがっているだろうと思っていた恋人は、自分のことなど全く思い出しもせず、孵るかどうかも分からない卵を温めていたらしい。
理不尽だ。どう考えても理不尽だ。そう思うとやはり怒りの方が勝った。

「くだらねぇ。俺ぁ、帰……」

そう言ってくるりと踵を返そうとしたときだ。後ろで「あっ」と銀時の声が上がる。
それに振り返ると、銀時が大事そうに腹からそれを取り出した。
話題の中心になっている、件の卵だ。
銀時はそれをテーブルの上に置き、じっと眺める。神楽もそれに倣って卵を見た。

「どうした?」

あまりに真剣なその様子に、土方は不思議に思い銀時の隣に立つ。そして卵をまじまじと見詰めた。

「しっ」

銀時は視線を卵に固定させたまま、人差し指を唇に当てる。それに首を傾げながら、同様に卵を見ていると、それに小さなひびが入り始めた。

「な……」
「孵化が始まったんだ」

銀時の言うとおり、ヒビはあっという間に広がり、卵全体を覆いつくす。そして殻の上の部分がぼこりと陥没した。そこからにゅっと小さな手が出てきて、周りの殻を中から崩していく。
そう。手なのだ。それは人間と同じもので、土方は目を瞠る。
卵から生まれる人間?土方は声も上げずにパニックに陥った。
そんな土方を残したまま卵は見る見る間に砕け落ち、中から小さなミニチュア版の人間の赤ん坊がその姿を現す。しかしそれは完全に人間と同じ姿をしているわけではなかった。その背中には小さいながら、真っ白な翼が付いていたのだ。
それを見てようやくこれは天人なのだと理解して、土方は少し落ち着きを取り戻した。
皆の注目を浴びているそれは、真っ黒な髪にまだ卵膜が付いていて、それが気持ち悪いのだろうか。それはまだうまく動かない小さな手でそれを取り払おうと必死になっている。それを見た銀時はくすりと笑みを洩らし、ちょいと指先で取ってやった。

「みゅ?」

途端に見上げてくる大きな瞳。それは黒というには少し色素が薄く、とても不思議な色合いをしている。ことりと不思議そうな顔をしながら首を傾げるその物体に、土方は何故か既視感を感じた。
知っている。この顔を土方は見たことがあった。いや。見たことがあるなどという次元の話ではない。

「お、俺……?」

そう。それは幼いながらも土方の生き写しだった。
何故天人が自分と同じ顔をしているのか。ようやく落ち着きを取り戻した土方は、再び困惑の極地に陥った。

「銀ちゃん、ニコ中とおんなじ顔してるアルよ。これが天使アルか?」

神楽も不思議そうな顔をしている。それに用意してあったのか。濡れたタオルでその謎の物体Xを優しく拭いてやりながら、銀時はそうだよ、と答えた。

「俺にとっちゃぁ、この顔が天使さまなの」

にっこりと笑みを浮べる銀時に、神楽はいまいち理解できていないかのように首を傾げた。




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