銀時×土方2

□shift! 1
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ピンポーン

と、軽い音が部屋の中に響いた。ついでに俺の頭にも響いた。昨夜はいつもの如く、行きつけのおでん屋で長谷川さんと意気投合して、たらふく呑んで明け方帰ってきたばかりだ。おかげで頭が痛い。
どうやら同居人である神楽はいつまで経っても起きてこない俺に焦れて、巨大犬を連れて出て行ったようだ。大方もう一人の従業員の家に、朝飯を集りに行ったのだろう。
ここは無視だ。俺はいない。俺は留守です。そうボソボソと呪文のように繰り返していると、俺の心情を読んだかのように

 ピポッピポッピポッピポッ!!!

と連打が始まった。
だァァァ!寝てらんねェ!!
ぜってぇ、ぶっ飛ばす!!なにが何でもぶっ飛ばす!!!
そんな勢いで、玄関の扉を勢いよく開ける。

「あ、坂田氏ィ。やっぱりいたぁ」

しかし、目の前でにこにこと笑顔の大安売りをしながら立つその姿に、俺はガックリと肩を落とした。

「トッシー……」

力なく、その名を呼ぶと彼は

「一緒に来て?」

と、ことりと小首を傾げながら上目遣いに微笑みかけてきた。


トッシーこと土方十四郎は、俺の恋人だ。一応……。
以前妖刀の呪いに掛かってしまった彼は、ヘタレたオタクになりかけた。それがトッシーだ。どうにかそれをねじ伏せた今でも、たまにそのオタクはこうやって出てきては俺のところにやってくる。
そりゃぁ、最初はムカついたさ。俺の土方返せ、コノヤロー!!だった。
だが、ある時ふと気付いたんだ。これは土方の無意識の休息なのではないかと……。
土方は何でも自分一人で背負い込んでしまう。
仕事も人の想いも恨みも何もかも……。
先日起こった伊東の造反。そして粛清。それも結局、土方一人が全てを背負った。
恐らく土方は自分でも気付かないところで、疲れ切っていたのだろう。体の奥深くで治ることのない傷は、膿みを流し続けて爛れていく。それを見て見ぬ振りし続けて、きっと限界を迎えたのだ。
そして出てきたトッシー。彼が表にいる間だけは、土方は休めるのだろう。ゆっくりと、誰憚ることなく四肢を伸ばし、眠ることが出来る。

「今日はトモエちゃんの初版DVDの発売日なんだ。一緒に買いに行こ?」

トッシーは出てくると必ず俺のところに来る。以前、一緒に行動したこともあるからかもしれないが、それでも懐いてくる彼はとても可愛かった。いや。元々俺が惚れて頼み込んで、どうにか恋人になってもらった相手だ。可愛くないわけがない。
もしかして土方が無意識の内に、俺になら護ってもらえると思っているのだろうか?俺になら甘えられると思っているのだろうか?
だからトッシーはそれを感じ取り、俺のところに来るのではないか?
土方は決して俺一人のものじゃない。彼にとっては真選組が一番で、近藤が大切で、護られようともしないし、感情も露わにしないし、決して甘えようとなんてしない。
だが、トッシーは違う。トッシーはとても素直だ。よく笑い、よく怒り、よく泣く。無邪気に甘えてきて、蕩けるような笑顔でおねだりをしてくる。
土方は俺だけのものにはならないが、トッシーは俺だけのものだ。
だからつい今日も二日酔いで痛い頭を抱えながら、彼に望まれるままアキバに向かった。




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