銀時×土方2

□雨降って地固まる
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「邪魔だ!トシ!!」
「邪魔じゃない!」

トーシローに抱き込まれたままの銀時は、そんな二人の遣り取りをただ聞いているだけだった。しかしいい加減苦しい。

「ちょ、トーシロー。離して」

やはり魔法がうまく使えなかったのだろう。トーシローはびしょ濡れになっている。それが頬に当たって冷たかった。まァ、尤も銀時もトーシローに負けず劣らず濡れ鼠なので、然程問題はなかったが……。
その銀時の訴えに、トーシローはハッとしておずおずと力を緩める。プハッと、離れた銀時は息を吐いた。

「ごめんね。どこか痛いところある?」

自分のほうが痛そうに顔を歪めて尋ねてくるのに、大丈夫だと言ってやると、トーシローはようやくホッと僅かばかり笑みを乗せた。
それが気に入らなかったのだろうか。シンスケと呼ばれた男は更に憮然そうな顔をして、むんずとトーシローの手首を取った。

「おら。帰るぞ」
「やだ!」
「駄々捏ねてんじゃねェよ!ドジのくせに生意気だぞ!!」
「ドジじゃない!トシだ!!」
「うまい……!」

銀時は思わず噴出して、合いの手を入れてしまった。途端にトーシローは瞳を潤ませ、むーっとむくれて上目遣いに睨み付けてくる。それに明後日の方向を見、目線を泳がせ誤魔化した。

「みろ。誰が見ても、オメェはドジなんだよ。そんなやつが一人、こんなとこでどうすんだ。帰るぞ!」
「帰らない!!」

無理やり引き摺って行こうとするシンスケの手を、今度は銀時が引っ掴む。そしてそれを引き剥がし、二人の間に割り込んだ。

「やめろよ。嫌がってんじゃん」
「オメェ、誰に向かって口聞いてんだぁ?」

途端目を瞠ったシンスケが、次いではクツクツと昏い笑みを浮かべる。それに銀時はゾッとした。皮膚が一気に粟立つ。

「旦那。止めときなせィ」

どこに隠れていたのか。ソウゴがやってきて、耳元にそう囁く。彼が思いのほか真剣な顔をしている事実に、銀時はこめかみに汗が流した。ということは、かなりの相手なのだろう。
それに遅せェんだよ!と思わず心中で罵倒した。もうすでに、退ける雰囲気ではない。

「誰?」
「オオエドの隣国、チョーシューの王子で高杉晋助。土方さんの従兄でさァ」
「ただの従兄じゃねェ。許婚だよな?」
「違う!!」
「え?」

晋助のその言葉に、銀時は掴んでいた手を離す。それにシンスケは笑みを深くして、再度トーシローの手を取った。

「違わねェだろ?生まれたときから決まってたじゃねェか」
「シンスケはいじめっ子だから、ヤダ!」
「誰に向かって呼び捨てしてんだぁ?あぁ?!シンスケ様と呼べ!!」
「いひゃい!いひゃい!!」

シンスケは空いている手でトーシローの頬を抓り上げた。その顔は嬉々としている。
トーシローの悲鳴じみた声に、銀時はハッと我に返った。目の前の惨状に銀時はハァッと嘆息を落として、止めてやる。するとトーシローは痛みで瞳一杯に涙を溜めて、パッと銀時の後ろに隠れた。
なるほど。二人はこういう仲らしい。
どうやらシンスケは好きな子ほど苛めたい、という子供のような一面も持ち合わせているのだろう。確かにトーシローを見ていると、ついグリグリと弄り倒したくなる心理は分からないではない。

「何だぁ?オメェ。俺様に歯向かうってのか?」

居丈高に言い放つシンスケに、銀時は肩を竦ませる。案外と子供っぽいところのある彼に、そうと分かれば先ほどまでの訳の分からない恐怖感は途端に薄れた。

「本人がここにいたいってんだから、少しは聞いてあげたら?」
「俺は別にいいんだぜぇ?ただ、妙に頼まれてんだよ。また怒られても知んねぇぞ」
「お、お妙ちゃん……?」
「すでに近藤はこっ酷く怒られてたなぁ」

ニヤニヤと意地悪く笑みを浮かべるシンスケの前で、途端にトーシローの顔が蒼白に変わる。銀時のシャツを掴む手が、小刻みに震え始めた。
突然のトーシローの豹変に銀時は目を瞠る。

「土方さんの母ちゃんでさぁ」

ああ。たしかあのゴリラでさえ敵わないというゴリラ女。銀時はそう記憶を引っ張り出した。
それほどまでに実の母親が怖いのだろうか?
銀時の母もいい加減ぶっ飛んでいるが、別段怖いわけではない。まぁ、あのゴリラと結婚したほどの女だ。余程漢前で豪放磊落な女だろう。
毛深いごつい女を想像して、思わず身震いした。
その時だ。突然能天気な声が辺りに響き渡ったのは……。




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