銀時×土方2

□僕の一番欲しいもの
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トーシローは劣等生だった。
魔法王国オオエド。
トーシローは王子であるにも関わらず、他の者と同じように国立の学校に通っていた。
学科は学校始まって以来の天才だと言われるほどにいいものであったが、それに比べ実技の方はその学科の成績が翳んで消えてしまうほどに最悪だった。
なにせ小学校に入学したての子供でも簡単に出来るような魔法さえまともに使うことができない。
あまりにも不出来なトーシローの実技に、さすがの教師も匙を投げてしまうほどだ。
トーシローの父である近藤勲は、歴代の国王の中でもその魔力はずば抜けて強大なものだったために、余計にトーシローの不器用さは際立って目立った。
それほどに偉大な国王の子供なのに……。皆がそう思っていることなど、トーシローにだって分かっていた。それがどれほどトーシローの劣等感を煽っていたことだろうか。
それでも近藤は国中の民に知れ渡るほどトーシローのことを溺愛していたし、トーシローもそんな偉大な父が大好きだった。母にはいつも怒られていたが、それも自分への愛情の裏返しだと言うことは分かっていた。
国民がそんな不器用な王子のことを心底愛していることは、トーシロー本人のみが気付いていない事実だ。
だから、修行に出ることにした。少しでも両親の期待に応えたい。
その一心で家を出て、修行の場所を東京にした。オオエドではあまりにもトーシローは有名人で、修行どころではないために場所を変えることにしたのだ。
オオエドと東京は表裏一体の世界だ。昔はお互いに行き来していたらしいが、今では東京の人々はオオエドの存在など忘れ果て、たまにオオエドの者がこっそりと東京に来るぐらいだからちょうどいいと思った。この世界なら、誰もトーシローのことを知らない。
自分が出来の悪い王子だということを知るものは、誰一人いないのだ。
生まれたときから共にいるソウゴを連れて、こちらの世界に来た時はとても嬉しかった。全てから解放されたような気になった。
そして、ぽっかりと夜空に浮かぶ満月。それを見ながらホウキに乗って空を飛んでいる時にそれは起きた。突然バランスを崩して、まっさかさまに落下したのだ。
もうダメだと思った。心の中で家を出る時に心配そうな顔をしていた父にごめんなさいと謝った。
しかしだ。突然唇に柔らかな温もりが触れた。なんだろうと思い、目を開けると目の前に綺麗な銀色の光がいたのだ。その光にトーシローは一遍に心を奪われた。
欲しいと、咄嗟にそう思った。これほどまでに何かを欲しいと思ったことは初めてだ。トーシローは子供の頃から、物欲に乏しい子供だった。
銀時と名乗った彼が欲しい。
だからトーシローは、彼のお嫁さんにしてもらうことにしたのだ。



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