銀時×土方2

□天使の卵 2
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土方は目の前の光景を憮然と眺めていた。

「はい。あ〜ん」

目の前にはもう鼻の下を伸ばしに伸ばし、地面に着くんじゃね?と思うほどだらしない顔をした恋人がいる。
その目の前にはちょこんと座る小さな天使。
自分の同じ顔をしたそれは、言われた通りに小さな口を大きく開けて、差し出されたスプーンをパクリと銜えた。

「うわぁ、上手だねェ」
「銀ちゃん!次は私がやるネ!」
「あ〜!神楽ちゃん、ずるい!次は僕だよ」
「煩いね、このダめがね!お前がやるとチビひじがヘタレになるアルよ!!」
「そんなわけあるかァァァ!!」
「おめぇら!うっせーよ!チビひじが怯えてんじゃねェかァァァ!!」

オメェが一番うるせぇんだよ、と思いながらも口には出さず、土方はソファーに腰掛け、出された茶を啜った。この茶葉は何度ほど湯を注がれた後のだろう。もう殆ど色も香りもなく、ただの湯に成り果てている、などと目の前の光景とはかけ離れたことをつらつらと考えた。
土方は今日は非番だった。それもようやく取れた非番だ。本当に最近は忙しくて、2ヶ月ぶりに取れた完全オフの日だった。
一応先日、プロポーズはされたが忙し過ぎてずっと屯所に籠もっていた土方は、流石に悪いと思い万事屋にやってきたというのに、この扱いは一体なんだ。
扉を開けた銀時が、いらっしゃいと笑顔で迎えてくれたのはいい。中に案内してソファーを勧めてくれたまではいつものことだ。
しかしそれから以降、彼の興味は土方から完全に離れた。
ちょうどチビの食事の最中だったんだ、と言って、赤ん坊用の椅子にちょんと座っているチビひじこと、先日孵化したとある鳥の一種の雛に餌をやり始めた彼は、全く土方のことなどその意識から追い出したかのようにこちらを見ようともしない。
従業員の子供達も、特に神楽などは今まで自分より小さな者がいなかったからか、その雛に夢中のようでずっと構いたがっている。
3人で誰が餌をやるかで喧々囂々としている中、一人土方だけが蚊帳の外だ。

 なんだ。オメェ一人で育てれんじゃん……

一緒に育ててくれとプロポーズしたくせに、これでは土方など用無しではないか。
飲み干した湯飲みを些か乱暴にテーブルに戻したが、それでも誰もこちらを見もしない。
土方は、大きく息を吐き出した。
帰ろう。
ようやく取れた非番。ここで皆と共に過ごそうと思ったが、どうしてもその輪に入ることができなかった。
元々人付き合いが苦手で口下手な土方にとって、それはとても敷居が高い。
そっと部屋から去り、音も立てずに外に出た。
外に出ると、空が高い。涼やかな風が頬を撫でるが、これといって行くところのない土方は、とりあえず階段を降りた。
これからどうしようか。別段見たいと思う映画もない。下手に町中を歩いて厄介ごとに巻き込まれても厄介だ。何しろ自分が真選組副長として、良くも悪くも有名人である。
煙草を取り出し愛用のマヨライターで火を点け、途端に立ち昇る紫煙をぼんやり眺めた。
屯所に戻ろうか。
どうせ自室の文机には、非番も関係なく書類が山積みなっているだろう。それを片付けてしまえと、視線を下ろし、嘆息を吐いた。

「どこ行くの?」

歩き出そうとしたその瞬間、突然声が掛かった。振り返るといつの間に降りてきていたのだろう。銀時が雛を抱いて立っている。

「せっかくママと散歩に行こうと思って一生懸命食べたのに、先に行っちゃうなんて冷たいママでちゅねェ」
「な…っ!だ、誰がママだ!!」

銀時は先ほどの土方の疎外感を分かっていたのだろうか。それを払拭するように、おどけたような銀時の態度に土方はカッと頬を染めた。
銀時に抱かれた雛は不思議そうな顔で銀時と土方を交互に見詰める。

「ほら、チビ。ママでちゅよ」

そう言って笑いながら銀時は雛を土方に渡す。土方はおっかなびっくりそれを受け取りながら、ママって言うな!と再び抗議した。

「だって、ママになってくれるって言ったじゃん。チビひじもずっと待ってたんだよ」
「なんだ。そのチビひじってのは」
「ん?この子のこと。だってオメェのチビ版なんだもん」

なぁ、っと銀時が話し掛けるとチビひじは不思議そうに首を傾げながらも、ぴゃぁと鳴いてこくんと頷く。

「か、勝手に人の名前使ってんじゃねェよ」
「じゃぁ、ちびトシ」
「一緒じゃねェかァァァ!」

そう言いながら歩き始める二人は、どこから見ても立派な新婚夫婦だった。

 


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