銀時×土方2

□shift! 5
1ページ/3ページ



晋助は一体何を考えているのか。確かに最初はそう思った。
彼にはひどく人を惹き付けるものがある。誰もがそれに惹き付けられ、魅入られ、結局彼から離れられなくなるのだ。
拙者も切欠は面白そうだ、というただそれだけだった。部下になるのではない。対等な立場として自分で決めて協力する。そう言うと彼はさも愉しそうににやりと笑っただけだった。
それからはその時に言ったように、自分が面白いと思うことには協力した。
つい先だっての真選組への介入にしても、そうだと思ったから手を貸したのだ。
だが、それがどうだ。
実は晋助は、単に副長である土方が欲しかっただけなのだという。なんと彼は、不倶戴天の敵であるはずの土方に懸想しているらしい。
それを聞いたときには、流石に目の前が真っ暗になった。ちなみに言っておくが、決してサングラスを掛けているせいではない。
いくら晋助が破天荒だといっても、それは行き過ぎだ。自分が攘夷志士にとって、カリスマ的存在だという認識はあるのだろうか。聞くと恐らく、そんなの関係ねェと、どこぞのお笑いタレントのようなことを言い放たれることはわかっているので聞くことはしないが……。
そして先ほど、電話をしてきた晋助の言葉に目を剥いた。

『トッシーを連れてこい』

はっきり言って、トッシーって誰だ?!という感じだ。聞くと件の土方のことだと言う。拙者は耳を疑った。
そんなこと、できるわけがないではないか!
反論する拙者に、珍しく焦った声で晋助が語気を荒げた。

『早くしろ!今トッシーはアキバに一人で向かってんだよ!こんなチャンス、二度とねェ!!』

アキバ?アキバといえばあれか?オタクの聖地と呼ばれるアキバ?何故、鬼副長ともあろう者が、そんなところに……?
そしてふと思い出したのは、先日の一件だ。
そういえばあの時、土方はヘタレたオタクになったという報告を伊東から受けた。
その人格が未だに出てきているのだろうか?
とりあえず、ここで無視をすれば晋助の機嫌が悪くなるだろう。
今日は幸いといっていいのか、仕事は入っていない。
拙者は車の鍵を持って、部屋を出た。
そして今、そのトッシーが隣りにいる。
拙者がアキバに駆けつけたときには、同志と言うのもおこがましい浪士崩れに襲われ、危機一髪のところだった。
なるほど。やはり中身は土方とは似ても似つかぬ。
しかし助けてすぐにポロポロと泣き出した彼を思わず抱き締めてしまったことは、晋助には言わぬ方がいいだろう。自分でも咄嗟に何故あんなことをしてしまったのか、説明なんぞ出来ない。
しかし晋助が執心するわけが、少しだけ分かったような気がした。

「河上氏……」

先ほどからじっと拙者を見ながら何か言いたげにしていたトッシーが、ターミナルに着いてようやく口を開けた。見るとその瞳は何故か妙にきらきらと輝いている。
なんだ?この何かを期待しているような目は……。

「これはキカイダーのジローのコスプレでござるか?」
「…………、は?」

キカイダー?ジロー?なんだそれは……?
訳も分からず、ぽかんとトッシーを見ると、彼は頬を僅かに上気させ上目遣いに伺ってくる。

「写真、撮っていいかな?」

……。こんな強請られ方をして断れる兵がいたらお目に掛かりたいものだ。
頷くと、途端にぱぁっと花が綻ぶような笑みが浮かぶ。それに思わず目を瞠った。
こんなに無邪気な笑顔ができるのかと、思わず見惚れてしまう。
そんな拙者を他所に、嬉しそうに携帯電話を取り出していきなり始まった写真撮影に、目立ったという自覚はあった。こんなことをしたがために、後ほど真選組に空路を使ったことがバレてしまうだろうが、まぁ、構うまい。どちらにしても、もう彼らが追いつくことは無理だ。
散々、撮影して満足したのだろうか。ホクホク顔のトッシーを連れ、晋助の元に向かった。
大阪に到着してからも、用意をしてもらっていたバイクに飛び乗り京を目指す。
怖がってギュッとしがみついてくるトッシーの体温が、妙に暖かかった。
拙者たちを追った真選組のヘリこちらに到着したという報告を受けたのは、ちょうど京のアジトに辿り着いた時だ。

「杉氏!!」

トッシーは迎えに出た晋助の姿を見つけた途端、嬉しそうに駆け寄っていく。
迎える晋助を見て、拙者は本当に吃驚した。彼のそんなに穏やかで優しい笑顔を見たのは、初めてだ。
だがそれも納得できた。トッシーはいるだけで周りを和ませる何かを持っている。
こんな人物も晋助の周りには必要なのかもしれない。
人間、いつまでも憎しみだけで生きていくなぞ、できるはずもないのだから……。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ